第30話
 コーヒーブレイク 〜 天秤(てんびん)の話 〜
 

 
 
 
「主な対象読者」
今回の対象者は小学生以上です。
今回は息抜きとして天秤(てんびん)の話です。
気楽にお読みください。
 
 
 
 
本 文 目 次
著作 坂田 明治
 
 

 
 
第30話 コーヒーブレイク 〜 天秤(てんびん)の話 〜
 
1.天秤(てんびん)
 
 最近は、天秤っぽい天秤をあまり見かけなくなりました。以前、個人商店が多かった頃は、大体、どの店でも天秤で計り売りをしていました。また、天秤は、世界各地で使われています。それだけに文化的な価値が高いと考えて間違いないでしょう。
 
 最近は、デジタル天秤や電子天秤だのといった、一見して天秤とは思えないような形をしたものが大量に出回っています。ものを乗せると、重さが数値で表示され、しかも、自動校正(こうせい。狂いを調整すること)機能付きだとか。便利でしょうけども、「面白くない!」。これでは、いずれは天秤を知らない子が増えてくると思います。既に、天秤棒を見たことのない人も増えていますし。(しかも大人)
 
 そこで、今のうちに天秤の話を書いてしまいます。忘れ去られる前に。
 天秤の基本的な形は図1にある通りです。多分、どっかで見たことがあるでしょう。使い方はいたって簡単で、左右の皿にものを乗せ、重さが同じかどうかを比べます。うまく釣り合いが取れて、棒が水平になれば同じ重さということです。
(図1をクリックすると写真の画像が出てきます)
 
 理科の実験でも、薬品の量を計るのに天秤計りを使っていましたね。ちゃんと分銅(ふんどう)をピンセットでつままないと先生に怒られます。手の油が付いて、分銅の重さが変わってしまうからですが、その程度で変わってしまうほど精密なのですね。
 
 さて、天秤といえば忘れてはならないのが天秤棒です。
 
 
 天秤棒は、図2にあるような、「ただの棒」です。たいそうな名前が付いていますね。以前は、もの売りや、畑に肥やしを運ぶときなどによく使われていました。使い方は、棒の両端にものを吊るし、棒の中央あたりを担ぎます。
 
 
 うまく、重さが釣り合ったところを担ぐのが一番楽です。また、手で持つより、肩に担ぐ方が背骨への負担が小さくなります(背骨に近いところに重さがかかるので)。実験したい人は、バケツに水を入れて(あまりたっぷり入れない方がいいです)、手でぶら下げるのと、手を水平に伸ばしてバケツを持つのとどっちが楽かをやってみれば解ります。
 
 天秤棒を担いでみたいという人は、長さ1m〜2m程度の丈夫な棒(室内用の短い物干し竿があればいいのですが)を見つけてきて、バケツを2個用意し、バケツに水を入れて(あまり入れすぎない方がいいです)、図3のようにして担ぐといいでしょう。担ぐ位置をずらしていけば、一番楽なところがありますので、そこが釣り合ったところです。他人のいうことを鵜呑み(うのみ)にせず、何事もやってみることです。自分でやってみると色々と実感できてためになります。
 
 では次に、天秤を自作してみましょう。誰でも簡単にできますので、是非作ってみてください。
 
 
 必要なものは、棒と皿と糸です。皿は手ごろな大きさの紙の皿にするといいでしょう。何枚組み幾らで売ってるやつの方が重さが同じなので便利です。その他に、定規や工作用の道具が必要です。作り方は、図4にあるとおりです。棒の中心と、皿を吊り下げる位置はできるだけ正確にしましょう。あとは好みで、糸を結わく(ゆわく)か、瞬間接着剤で固めたり、テープで止めたりします。皿は三本の糸を付けて吊るすと安定します。この三本の糸を直接棒につないでもいいですが、途中で一本にまとめて縛り、そこに一本の糸をつなぐと棒に付けるのが楽になります。これも好みの問題です。
 
 ここまでできたら、天秤を吊り下げてみます。このときに、皿の両方に同じ重さの錘(おもり)を乗せると調整が楽です。棒が水平にならず傾いたときは、上に上がっている方の腕に、細い針金か糸を巻きつけて水平になるように調整します。はりつけるのは粘土でもいいです。針金や粘土を付けるときに、同じ重さでも中心からの距離によって傾きが変わってきます。そのことを利用するといいでしょう。
 
 こうして、天秤はできました。いろいろなものを計ってみましょう。自作は楽しいし、自作したものがちゃんと動くと更に楽しいものです。
 
 さて、普段、重さを計るのによく使うのはバネ計りです。料理用の計りなどをよく見かけるでしょう。使う人はよく使うようですが、使わない人は滅多に使いません。まあ、目分量で十分だからでしょうけど。
 
 バネ計りの方は、ものを乗せて、目盛りを読むだけですので便利です。使い勝手のよさから、バネ計りに地位を取られたのでしょうけども、しかし、バネ計りと天秤とどっちがいいかというと、やはり天秤です。
 
 だって天秤は自作できるけど、バネ計りは自作が難しいもんね。ということもありますが、もっと別な理由があります。
 
 
 図5はバネ計りの基本的な構造を書いた図です。ものを引っ掛けると、重力に引かれてばねが伸びます。すると、同じものでも、重力が強ければ、バネは伸びますし、逆に重力が弱ければバネの伸びは少なくなります。
 
 
 図6は極端な例え話しとして、月と地球と中性子星にバネ計りを持っていったときの状況を書いた絵です。もちろん絵はデタラメですし、中性子星にものを置けるかどうかとか(物質が潰れて中性子になるけど)、あんまり強く引っ張るとバネが壊れるとかは考えないことにします。月は地球より重力が弱いので、バネの伸びは少なくなります。逆に、中性子星の重力はやたらと強いので、バネの伸びが大きくなります。
 
 するとどうなるでしょうか。月と地球と中性子星の商人で取引をする場合を考えましょう。それぞれが同じバネ計りを使って10gのものを取引しようとしている場合を想定しましょう。
 
 月では、図6の地球のバネと同じ伸びになるように計りますから、ものの量が多くなります。逆に、中性子星では、図6の地球のバネと同じ伸びにするためにものの量を減らします。それで、取引したら、当然大喧嘩(けんか)になりますね。
 
 更に怖いことに、地球上でも重力が一定ではありません。赤道付近や高山では重力が弱く、極地付近では重力が強くなります。各国ごとに重力が異なるため、やはり、国際問題となります。
 
 そこで、バネ計りは使用する場所に合わせて校正(こうせい。うまく調整すること)する必要があります。要するに、引っ越すと行く先々で調整しなおすということですね。
 
 それなら天秤はどうでしょうか。
 
 
 天秤では、左右の皿に乗せたものにかかる重力が、どちらの皿でも同じです。ということで釣り合っているものは釣り合っているということです。これなら、月でも、地球でも、中性子星でも影響を受けません。同じものが同じ量あれば、どこで計っても同じです。当然、地球上で重力が色々と違っても同じ量だけ計れますので問題はありません。つまり、天秤で計れば、国を超えての貿易ができるようになります。
 
 これで、なんとなく、天秤が世界各地で使われ、商人が天秤を持っている理由がなんとんなく解りましたね。
 
2.親から子へ、おじいちゃんから孫へ
 
 天秤は実用的な道具ですが、そのほかにも色々な話に使われます。それだけ日常的に深く入り込んでいるということでしょうか。天秤座のいわれは、正義を計る天秤だそうです。その他、罪を計るのに使われたり、まあ、色々な目的で使われている話があります。
 
 天秤は罪を計る象徴として丁度よいのでしょうね。誰でも閻魔(えんま)さんをご存知と思います(残念ながら会ったことはありませんが、会ったときは地獄落ちかな)。よく、「ウソつくと閻魔様に舌抜かれるぞ」というあれです。閻魔帳(えんまちょう)に全ての罪が書かれていて、死んで閻魔さんのところへ行くと、その罪が七つの天秤で計られ、どの地獄に落ちるか決められるとの話があります。原典はどこかにあるのでしょうが、それよりも、親から子へ伝えるとか、おじいちゃんやおばあちゃんから孫へ伝えるべき話でしょう。
 
 こういう話を書くと、非科学的だとかいう輩(やから)がいますが、そういう問題ではないと思います。大体、ドラマでも映画でもアニメでも、非科学的かつ想像上の話がほとんどです。実話みたいなフリして、嘘八百(うそはっぴゃく)というのもあります。それなのに、親から子へ、おじいちゃんやおばあちゃんから孫へ伝える話を非科学的といってしまうのはおかしいと思います。
 
 だいたい、聞いている方も真実だとは思ってませんし。それよりも、子供にこういう話をしてやることの意味の方が重要だと思います。それが将来どうなるかは解かりませんが、子供にはなんらかの刺激となっているはずです。もちろん、家族関係が良好でなければ、こういう話はできません。意味がないと切り捨てるよりも、将来への布石(ふせき)と考えたいものです。
 
3.分銅(ふんどう)
 
 最後は、分銅(ふんどう)の話です。この話で忘れてはならないものが「キログラム原器」です。フランスにある国際度量衡局(BIPM)に、「国際キログラム原器」が保管されています。国際キログラム原器の重さ(正確には質量です。質量については高校の物理で習いますので、後の楽しみとしてください)が1kgの定義です。
 
世界各国(正確にはメートル条約に加盟している国)に国際キログラム原器のコピーがあり、それが各国のキログラム原器となっています。これらは、約30年ごとにフランスへ送られて校正(重さのずれを補正すること)されます。もちろん校正には極めて精度の高い天秤が使われます。
 
その後、各国の錘(おもり)などが校正されて、天秤で使っている分銅も校正されます。なんともスケールの大きな話ですね。
 
 なお、日本のキログラム原器の写真は下記サイトに載っています。
 
 さて、理科の実験に使う天秤は、分銅が色々と用意されていていいのですが、普通は、分銅を、1g、2g、3g、4g、5gなどと用意はしません。よく使われる分銅セットは、1g、2g、4g、8gと倍倍となっているセットです。これで15gまで計れます。1g、2gは問題ありません。3gは1g+2gです。4gはそのまま、5gは4g+1gですね。以下同様にして、15gまで計れます。次の分銅は16gを用意して31gまで計れるようになります。
 
 ところで、分銅がなるべく少なくなるような分銅セットもあります。1g、2g、5g、10gという分銅セットを用意すると、1gから18gまで計れます。1g、2gは問題ないでしょう。3gも1g+2gなので問題ありませんね。4gはどうしましょうか。
 
 
 図8のようにすれば4gが計れます。以下同様にして、18gまで計れますので、自分で考えてみましょう。
 
 他にも、色々な分銅セットが考えられますので、みなさんも頭の体操として考えてみましょう。
 
平成19年9月21日
坂田 明治
 

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