第4話
 鏡の国の光子さん その一


 
『主な対象者』
 中学生以上が主な対象者です。
『両親へのお願い』
 初等幾何の問題を理解する力は、人によるばらつきがとても大きいので、小学生でも理解できる人もいますが、大学生でも理解できない人もいます。
 児童や生徒でも読めるように難しい漢字には「ふりがな」をつけました。お父さんやお母さんが子供と一緒に謎解きに挑戦してみてはいかがでしょう。
 親子で興味と時間を共有できることを期待しています。
 
 
本 文 目 次

第一章.よもやま話
第二章.最短経路(さいたんけいろ)
第三章.二面鏡(にめんきょう)
第四章.光のいたずら
著作 坂田 明治
 

 
第4話 鏡の国の光子さん その一
 
 
第一章.よもやま話
 周り(まわり)の人たちは、役立つ助言をしてくれます。前の原稿を書いているとき、「昔の本は、漢字の上にふりがなが付いていて、大人も子供も読めるようになっていた」と言っていました。これはありがたい忠告と受け止め、ふりがなを付けたのもこのためです。
 
 ですが、ろくなことにならない場合もあります。実際、「全て説明するよりも、多少、問題だけ出して回答をしない方が興味を引いていいよ」とありがたい忠告(?)を受けました。これを信じて、「馬が川で水飲んで、海馬桶(かいばおけ)の干草を食べる最短経路問題(さいたんけいろもんだい)」(図1です)を出したら、「その回答を教えろ」と催促(さいそく)されたし。
 
 これ、子供から回答を知りたいとの問合せがあったら書こうと思っていたのですが、うるさいので、回答を含めて幾何光学(きかこうがく)の話を書きます。本来の趣旨である「子供向け」というのから「周りの大人向け」となってしまいました。なにか変ですね。
 
どうやら、大人も子供の頃の興味を完全に失っていないのではないでしょうか。本当かな。
 
 さて、子供が理科への興味を失う原因はなんでしょうか。色々あると思います。ひとつには、子供の質問にちゃんと答えていないというのがあると思います。もともと、子供の質問は、説明の非常に難しいものが多く、かなりの広範(こうはん)な知識を必要とします。その上、それを子供に解るように説明するのは大変に難しい側面を持っています。
 
 ちゃんと説明しない典型的な例が、透明(とうめい)な液と、透明な液をまぜたら、「あら不思議。赤くなっちゃった」(別に何色でもいいんですけどね)というものだと思います。身近なところでは、りんごを切っておくと、切り口が段々茶色になってきますよね。通常、これらは、「化学変化がおこったから」と説明されていますが、これは全く説明になっていません。子供によく聞くと、「化学変化がおこったことは解った。だから、何で化学変化がおこると色が変るのか」とのことでした。つまり化学変化と色の関係を知りたいということです。
 
 ここから先の話は無理に理解する必要はありませんので、飛ばして次の章へ進んでも結構です。
 
 子供の質問に答えるためには、まず、化学変化とは何か(電子の共有状態の変化です)、その物質の化学的性質を決めているものは何か(電子の状態です)を説明しなくてはなりません。その上で、色は光が関係しているので、光子(こうし。本稿のタイトルにあるのは「みつこ」ですが)と電子との相互作用(光子の吸収、放出、散乱です)について説明しなくてはなりません。
 
 これで話が終わりではなく、人間が色を認識する仕組みについての説明が必要です。つまり、我々の目が、光の波長を認識する仕組みです。それから、これも誤解している人が多いのですが、色は物質に固有の性質でも、光の波長に固有の性質でもありません。我々の脳が、勝手に光の波長に対して割り当てているものです。つまり、我々の頭の中にあるものです。例えば、青と感じる光の波長がきたとして、私が認識している青と、あなたが認識している青とが同じである保証はありません。ただ、共通に、その波長を青と認識しているだけです。
 
 子供の質問に答えるには、これだけの説明が必要と思います。とても、ここで説明できるものではありませんので、誰かうまい説明ができる人の現れることに期待をかけましょう。
 
 
第二章.最短経路(さいたんけいろ)
 さて、子供向けということもあって、本稿では、厳密さ(げんみつさ)よりも、イメージ的にとらえることと、基本的な考え方に焦点(しょうてん)を当てています。このため、距離(きょり)と長さを同じ意味で使ったり(距離と長さは別の概念(がいねん)です)、イメージ的に解ればそれでよしとしたり、同じ記号を色々な意味に使ったり、かなりいい加減なところがあります。厳密な理論展開が好きな人は、満足の行く形に展開しなおすことをお勧め(おすすめ)します。
 
 本講座では、光と鏡が主役です。レーザーポインター(懐中電灯(かいちゅうでんとう)でもいいです)と鏡を用意すれば簡単に実験できます(注意:レーザー光を直接見てはいけません。目を痛めます。もちろん他人に向けてもいけません)。ただし、実際には、到達するまでの時間が一番短い経路を見つけることが目的で、光でなくても問題ありません。
 
 脱線しますが、用語には、光子(こうし)、陽子(ようし)、電子(でんし)、素子(そし)、航空母艦(こうくうぼかん。ちゃんと母が入ってる)や、あなたが今このページを見ているパソコンの中にもマザーボード(やっぱり母だね)など、女性の名前や母が付くものが沢山あります。普通、なにげなく出てくると、光子(みつこ)、陽子(ようこ)、電子(でんこ。どっかのイメージキャラ)、素子(もとこ)と読みますよね。それで、少しねじまがって、その二では、円錐曲線(えんすいきょくせん)三兄弟と勝手に名づけたものをあつかいます。
 
 まず、我々が普通に考えて、一番短い距離は直線的な距離です。そして、これが、光が到達する最短時間を与える経路になります。とやかくうるさいことを言うのはやめて、直線的な距離が一番短い(しかも一番時間がかからない)というのを出発点にしましょう。(カッコつけて言うなら、「ユークリッド空間内の均質な媒体(ばいたい。この際、真空と考えた方が解りやすいかも)で考えている」と言います。ちなみに、ユークリッド原論は聖書についで多く読まれているそうです)
 
 図3はA点からB点へ直線的に行くのが一番近いことを示したものです。C点で道草食って行くと遠回りになります。普通に歩いていてもそうですよね。距離が短ければ到達するまでにかかる時間も少なくてすみますので、光は直進します。しかも、ありがたいことに、光は鏡で反射させることができます(馬が走って行って、壁に体当たりしたら大変なことになりますが)。
 
 これで、図1の問題を光と鏡の問題に置き換えることができます。川の縁のところに鏡を立てて、A点から出た光が、鏡で反射してB点に行くと考えて、この光路(こうろ)を求める問題に置き換えていいでしょう(図4は真上から見ているイメージです)。B点に缶でも置いて、A点からレーザーを鏡で反射させて缶に当てると考えてもいいです。この際に、ドライアイスを水に入れて霧(きり)を発生させるか、湯気を発生させておくとレーザーの射線が見えます。なお、鏡に写った缶に向かってレーザーを撃てば実際に缶に当ります(なんのことないですね)。イメージとしては解ったと思いますので、あとは、これをきちんと(それなりに)説明すればいいだけです。
 
 上の節でのことを踏まえて、いよいよ、回答に移ります。まず、直線的距離が一番短い距離だから、何とかして直線を作ることを考えます。鏡での反射は、光の折り返しなので、折り返しを使えばよさそうな感じです(このように当りをつけることも重要です)。
 
 図5はB点を折り返したのがC点であることを示したものです。すると、A点とC点を結んだ直線が最短距離を与えます。P点は鏡を置いた直線と、AとCを結ぶ直線の交点です。Q点は「ほら他の経路は距離が長いでしょ」ということを示すために参考として書いたものです。
 
 今度は、CPを折り返します。C点はB点を折り返したものだから、C点を折り返すと丁度B点になります。すると、BPはCPを折り返したものだから、丁度同じ長さになります。
 
 つまり、AP+PBはACと長さが等しいので最短距離になります。こうして、A点から出た光は、P点で反射してB点に行くことが解ります。なお、C点はB点を折り返したものだから定規とコンパスで作図できます。ということで、直線LとACの交点としてP点は作図できます。つまり、A点から鏡で反射してB点へ行く光路は作図できるということです。
 
 残念ですが、まだ終わりません。残業(ざんぎょう)です(もちろん残業代は付きません)。図6をよく見ると、Rという点があるでしょう(しゃれではありませんので)。いよいよRを使うときがきました。まず、PBとPCはたがいにLに関して折り返したものになっています。ということは、角BPRと角CPR(文字化けの心配があるので角度の記号は使いません)はたがいに折り返したものになっているということですから、同じ角度になります。
 
 また、「対頂角(たいちょうかく)は等しい」という性質がありますので、角APQと角CPRは等しくなります。これから、角APQと角BPRは等しくなります。
 
 角APQのことを「入射角」、角BPRのことを「反射角」と言いますので、「入射角は反射角に等しい」という性質が出てきます。これは光の重要な性質です。
 
 
第三章.二面鏡(にめんきょう)
 今度は、鏡が二枚あるときの話です。
 
 図7にあるように、二枚の鏡で反射して、A点からB点へ光が行くときの光路を求めてみましょう。とりあえず、どうなるのか解らないので、適当に直線を書いてみます。あとは、最短距離は直線で与えられるから、なんとかして直線を作ることです。さっきのやり方から、とにかく、A点とB点を折り返してみます。そして、それにともなって、図7の適当に書いた線も折り返してみます。
 
 
 図8を見れば、これは折り返した点を結ぶ直線を引けばよいことに気が付きます。
 
こうして、見事に光路(最小経路)が求まりました。
 
続いて三面鏡と行きたいところですが、面倒なので興味のある方だけ試してみてください。
 
 
第四章.光のいたずら
 もう飽きてきたので、鏡の世界から少し離れて、もっと別なところで考えてみましょう。
 
 図11は海で溺れて(おぼれて)いる人がたすけを求めているところです。見殺しにしないでたすけに行きましょう。大概(たいがい)の人は、図11の矢印のように、直線的にたすけに行くでしょうか。でも、ちょっと待ってください(待ってたら溺れるってば)。泳ぐよりも、陸上を走る方がはるかに速いので、直線的に行くのがいいかどうかは疑問です。
 
 やはり、時間が最小になる経路と言えば光子さんでしょう。
 
 A点からB点への光路は、時間が一番小さくなるような経路ですから、
 
AP/a + PB/b
 
が最小になるようなものになります。各々の点に座標(ざひょう)を入れてゴリゴリ計算すれば求まりますが、ここではやりません(他にも色々な方法があるようですが)。結果を知りたい人は図14を見てください。
 
 計算自体よりも、速さが変ると直線的な経路では時間が最小にならないことに注目しましょう。この事実を実感するために、極端な場合を考えてみましょう。
 
 図15の左の方にある青い線は、上半分では普通の移動しかできないけれども、下半分では瞬間移動(しゅんかんいどう)ができる場合に一番時間がかからない経路です。下半分では、どんなに距離が長くても関係ありませんから(瞬間移動だから)、上半分の普通の移動にかかる時間が一番短ければよいわけです。これが青い線で示した経路です。赤い線で示した経路はその逆の場合です。こうしてみると、上半分と下半分で速さが変る場合には、直線経路が一番時間がかからないとは言えないことが解ると思います。光は空気中よりも水中の方が遅くなりますので、このような理由から、水面で曲がります。そこで、光のいたずらが発生します。
 
 図16は水中にある部分が縮んで見える理由です(水に赤い棒を入れたものです)。
 
 ここで、ものがそこにあると見えるのは、その位置から光が来ていることだと思い出しましょう。赤い棒の長さは、棒の上にある方の先端からくる光と、棒の下の方の先端からくる光とをとらえて、それを元にしているということです。つまり、図16で、目が、空中の方の先端からくる光と、水中からくる光をとらえているということです。
 
 水がなければ、棒の下の端から赤の矢印で書いたようにきた光をとらえて長さを判断します。これは、水面に書いた赤の線の部分から光がきているのと同じです。ところが、水面で光が曲げられますので、青の点線で書いたような、曲がった光が見えます。そうすると、水面に書いた青い棒から光がきているように見えます(説明の都合上少しずらして書いてあります)。これをもとに長さを測定しますので、青い線のように水中で棒が縮んでいるように見えます(我々の脳は水面で光が曲がったなどと判断しません。これは物理現象として理解しているのとは別です)。
 
 棒を、水に斜めに差し込んで、眺めて(ながめて)みると、今と同じ理由で、本来の位置と別な位置に見えます。その結果、棒が折れているように見えます。絵を描いて確かめてみましょう。
「その二」につづく
「番外編」 に行く 

 
平成18年12月26日
坂田 明治(あきはる)
 

 

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