第87話
 寝心地の話
 

 
「主な対象読者」
あまり年齢に関係なく、日常見られる現象へ興味や好奇心を持つ人たちを対象としました。式や難しい用語を用いず、絵と例を中心としていますので気楽に読めると思います。
 
「本稿の目的」
誰でも簡単にできる実験を中心としています。そして、一見常識に反しているように見えても、実は常識の範囲で説明がつくような現象や、普段見ているのに、見ていることに気づかない現象に焦点を当てています。言い換えれば、見方を変えることによって実体が見えてくる世界です。そういう世界を紹介して、見方を変える楽しさを知ってもらうことが目的です。
 
本 文 目 次
 6.力の分散
 7.力の集中
 
著者 坂田 明治
 

 
 
第87話 寝心地の話
 
1.実験してみよう
 今回は、金のかからない実験です。誰でも簡単に実験できるので、あとは、まとめ方と結論を工夫するだけです。(夏休みの頃、「夏休み自由研究」とか「金のかからない実験」とか、そういうキーワード検索で入ってくる人がかなりいました)
 
 この実験は、なんと、自分の体を用いた人体実験です。おおっ、なんかすごそうだ。と思ったら、そうでもなかったりして。
 
 どんな実験を行うかというと、「いろんなところに寝転ぶ」だけです。
 
 
 布団の上、畳の上、木の床の上、コンクリートの台の上、鉄板の上、草の上、などなど、いろんなところに寝転んでみましょう。そして、ここからが重要です。どこで寝転んだときが心地よいか、どこは、ごつごつして心地よくないか、そういったことを記録しましょう。その場所の写真を撮るなり、スケッチを描くなりすれば、なおいいです。また、材質もちゃんと書きとめておきましょう。
 
 では、これから、心地よかったときと、心地よくないときと、一体何が違うのかを考えて行きます。
 
 
2.力のかかり方
 毎度のことですが、大幅に遠回りして行きます。そうすることによって、いろんなことが見えてくるかも知れませんからね。
 
 子供の頃にやった遊びとして、忍者ごっこがあります。いくらなんでも、そんなの関係ないだろうと思うのが普通でしょう。忍者ごっこで、鎖鎌(くさりがま)分銅(ふんどう)を振り回していました。
 
 
 分銅は、ほぼ円を描きます。
 
 
 模式化すると、図3のようになります。要するに、円運動です。次に、この球にかかる力を全て書き込みましょう。
 
 
 球には重力がかかります。これは問題ないでしょう。また、空気中ですから、空気による浮力もかかります。更に、空気中を運動しますから、空気抵抗もかかります。ここまではいいですね。
 
 球はひもによって中心方向へ引っ張られていますから、ひもを通して張力がかかります。しかも、中心へ向かう力なので、これを向心力(円でなくても曲線なら定義できます)と呼びます。普通は、あまり聞かない名前かも知れません。これよりも、遠心力という力の方がなじみ深いと思います。
 
 ここで、図4の球に遠心力を書き込む人がよくいます。球の外方向(中心と反対の方向)へ矢印を書いて遠心力といっています。しかし、その遠心力は、どこから、どうやってかかる力なのでしょうか。どう考えても、重力は関係ありませんよね。空気も関係ありません。ひもの張力は向心力になるので、むしろ遠心力とは全く逆です。
 
 こうしてみると、遠心力は、全く得体の知れない力です。こんなときはどうするかというと、どっかの国の政治家がよくやるように「先送り」して、「現段階ではこれを扱うときではない」といってごまかすのが手です。ここでもそうしましょう。
 
 
3.向心力と円運動
 前章の図4をよく見ると、なんか、球の運動を妨害する空気抵抗があるだけで、円運動を起こす力がないように見えます。不思議な感じのする人も多いと思います。
 
 
 さて、空気抵抗だの浮力だの重力は邪魔なので、それらがかからないようなところ、つまり宇宙空間で考えます。すると、球にかかっている力は向心力だけです。この際なので、規模を大きくして、太陽地球を考えてみましょう。地球は太陽を中心とする円運動をしています。正確にはだ円運動ですが、ほとんど円軌道です。更に、地球にかかる力は、太陽からの重力だけです。
 
 こうしてみると、向心力が円運動をもたらしていると考えられます。では、向心力がどうやって円運動を起こさせているのでしょうか。
 
 その前にハンマー投げを観戦しましょう。
 
 
 ハンマー投げでは、ハンマーを何回か回転(円運動)させて回転速度を上げ、手を離して投げるものです。誰でも一度は見たことがあると思います。この投げる瞬間をよく見ていきましょう。
 
 
 真上から見ると、図7のようになります。手を離した瞬間から、接線方向へ飛んで行きます。図6では、円運動のため、先ほどの向心力がかかっていました。そして、手を離すと、もはや、ハンマーに向心力はかかりません。重力や空気抵抗、浮力などを無視すれば、なんの力もかかっていない状態です。つまり向心力がかかってなければ、円運動にはなりません。したがって、円軌道につなぎとめておくために向心力は必要なのです。
 
 とにかく、円運動に向心力が必要であると解りました。では、どういうわけで運動方向を曲げて円運動にするのかが問題となります。
 
 
 図8は図5の球の付近を拡大したものです。図5は円運動でしたね。円(正確には円周)の、微小部分を拡大すると接線とほぼ同じになります。海に行って水平線を見てみましょう。円には見えず、直線に見えますね。地球から見れば人間なんて微生物も同然です。地球のスケール人間のスケールよりはるかに大きいのでこうなります。スケールを合わせるためには、距離を取るのが一番です。地球から離れて、眺め(ながめ)れば、地球は丸く見えます。(しかし、何度も書いたように、著者は地球が丸いなんて認めません。国産の往還機を開発し、ただで乗せてくれて、地球周回軌道上から地球を見せてくれれば丸いということを信じてあげます。そうしてくれない限り認めないもんね)
 
 図8に戻って、微小部分を拡大して考えましょう。向心力がなければ、接線方向へ飛んでいってしまいます。つまり、運動方向は接線方向である赤の矢印の方向です。しかし向心力が働いているので、中心方向へ引っ張られ、図8にある赤の矢印青の矢印を足した位置に移動します。こうして運動方向が曲げられます。(図8は、かなりいい加減な近似の仕方と書き方です。ちゃんとやれば円になっていることを示せますが、それはよく勉強して自分で考えましょう)
 
 こうして、とにかく、向心力が円運動を引き起こしていると解りました。(なんとなくだけど)
 
 
4.電車実験室と遠心力
  今度は、先送りにした遠心力について考えます。まずは、電車実験室(丁度いい移動実験室です)での観察からはじめましょう。
 
 
 電車が発車して加速すると、図9にあるように、吊るしたおもりや風船が進行方向とは逆の方向へ流れます。人間も、進行方向とは逆の方向へ引っ張られるような感じがします。つまり、進行方向とは逆の方向へ力を感じます。ちなみに、電車の中で風船を見かけた人はあまりいないと思いますが、夕方頃、南流山で、つくばエクスプレスから、武蔵野線の府中本町行きの電車に乗り換えると風船を持った家族連れを見かけます。
 
 進行方向とは逆の方向へ力がかかっているようで、なんとなく変な感じですね。この力はどこからかかってくるのでしょうか。
 
 
 先ほどの話では乗り換えてますが、乗れないこともしばしばあります。家族連れに座席が占領されていて座れないときがそうです(しかもみんな寝ている)。やむを得ないので、一本見送ります。このとき、図10のように、風船、おもり、人は電車に引っ張られて進行方向に移動しているのが見えます。つまり、外から電車を中を恨みの目で覗く(のぞく)と、何も変なところはありません。なお、人は電車の床から足の裏を伝わって力がかかります。
 
 要するに、電車の中で観測しているか、電車の外で観測しているかで、話が全く逆になるということです。実際にやって確かめてみましょう。
 
 同じことが、電車が停車するために減速しているときも起こります。
 
 
 電車に乗っていると、減速時に、図11のように、進行方向へ引っ張られるような感じがします。発車時と同様に、進行方向へ向かう力はどこからきているのでしょうか。
 
 
 まず、減速しているのだから、進行方向と逆方向に力がかかっているはずです。ホームで待っていて、入ってきた電車の中を覗いて(のぞいて)いると、減速、すなわち進行方向と逆方向の力がかかるのだから、風船、おもり、人は電車に引っ張られて図12のように見えます。何も変なところはありません。
 
 これらから何が解るのでしょうか。電車の外から観測している限り、別段おかしなことはありませんが、電車の中で観測していると、実際にかかっている力とは逆向きの、正体不明の力がかかるということです。このような力のことを「みかけの力」と呼びます。つまり、電車の中で観測している場合に、どこからどう伝わってくるのか解らないつじつま合わせの力を感じるということです。この後出てくる「遠心力」も「みかけの力」です。
 
 さて、遠心力を感じるのは電車がカーブしているときでしょう。(以下、簡単のため、曲線は全て円か円弧と考えましょう)
 
 
 図13で、電車の中にいる人は、赤い矢印の方向へ飛ばされそうになり、風船やおもりも赤い矢印の方向へ傾きます。つまり、図13の赤い矢印のような遠心力を感じます。丁度、図9や図11と同じような状況になります。外から観測している人にとっては、カーブするときに、向心力(赤い矢印と反対方向)によって引っ張られているように見えます。これも、図10や図12と同じ状況です。ただし、電車の発車・停止と違って、向心力がどこから来るのかは、かなり解りにくくなります。
 
 以下、このことを考えて行きましょう。線路がカーブしていると、直線運動をしてきた電車は、強制的に曲線運動をさせられます。曲線運動というのは、進行方向を曲げる運動ですから、曲げるための力が必要です。これが向心力です。ではどこから来るのでしょうか。電車の場合、線路と接しているのは車輪だけですので、線路から車輪へ向心力が働いているとしか考えられません。
 
 
 図14は、進行方向を奥行き方向として、電車が左にカーブするところを書いたものです。左にカーブするときは、車体が左に傾きます。線路がそのように設置されているのだから当然なのですが、そうする理由があります。
 
 カーブしている線路を見かけたら、よく観察してみましょう。カーブの外側のレールが高くなっています。つまり図14のようになっています。 また、車輪にも秘密が隠されています。交通博物館などで、電車か車輪が展示されているのを見かけたら、車輪をよく観察しましょう。いいことが解りますよ。
 
 話を元へ戻して、図14のように傾くと、重心が左へ移動します。これは、重心から引いた重力の矢印が、車軸の中央より左を通っていることから解ります。
 
 このままでは取り扱いが少し面倒なので、他のものに目を向けましょう。よく見かける光景として、自転車やバイクが左にカーブするときは、車体が左に傾きます。もちろん走っている人が、左に曲がるときは、その人の体も左に傾きます。スピードが速いほど傾きは大きくなります(止まっているときに傾くと転倒する)。
 
 ここで、自転車、バイク、走ってる人は、左に曲がっても遠心力を感じません。実際にやってみても、遠心力で右のほうへ飛ばされそうに感じることはありません。なぜでしょうか。(飛行機や船が左に旋回するときも、機体や船体が左に傾きます。しかし、この場合は面倒なので、考えません)
 
 この辺をもう少し考えましょう。2輪だと、地面との設置面が二箇所できてしまうので、少々面倒です(そもそも電車に左右両輪があるから他へ目を向けたんだもんね)。そこで、1輪車の登場です。
 
 
 1輪車は、地面との設置面が一箇所なので、取り扱いが楽です。
 
 図15は、1輪車で走っていて(それもある程度スピードを出しているとしましょう)、左に曲がるときです。このとき、体と車体は左に傾きます。地面との接地面は一箇所だけです。したがって、ここ以外に向心力が発生するところはありません。
 
 図15で向心力は、車輪と地面の接地面から青の矢印で書いてあります。まず、体と車体は一体と考えてよいでしょう。すると、向心力によって重心は左に押されます。その結果、体と車体は左に傾きます。なお、傾くので、重心は少し下がります。
 
 こう考えると、スピードを出しているほど、曲がるときに、大きく傾くというのは、向心力がそれだけ大きくなるからと説明がつきます。更に、曲がる方へ押されるだけなので、遠心力のかかる余地はありません。
 
 同じように考えて、電車が、カーブするときは、曲がる側へ重心の移動が必要です。電車が傾いて片輪走行(自動車ではスキー走行といいますが)でもしたら、それこそ横転脱線の可能性が高くなり危険です。そのためにカーブの外側のレールは高くなっているのです。もちろん、それによってレールに角度を持たせる必要もでてきます。
 
 これで、図14のようになってる理由がわかりましたね。
 
 さて、自動車が曲がるときはどうでしょうか。だいぶ話が違ってきます。自動車が左に曲がるときは、車体は右へ傾きます。いや、右が沈むといった方が正しいかも知れません。どこでも見られますから、自動車が曲がるところを観察してみましょう。スピードを出して曲がろうとするものがいれば、よりいっそうよく解ります(これは無謀運転という類(たぐい)のものなので、真似しないように)。
 
 
 今までの説明と話が違ってきましたね。あたかも、自動車の場合は遠心力が働いているとしか思えなくなるでしょう。しかし、曲線運動をしているので、タイヤと道路の間では向心力が働いています。ではなぜこうなるのでしょうか。
 
 問題は、自動車が変形することにあります。「まさか」と思われるかも知れませんが、静止しているときと比較すると、図16は変形してるでしょ(右が沈んでいる)。この変形はサスペンションから来るので、原因はサスペンションにありそうです。元々、サスペンションは、乗り心地を良くするように、道路のでこぼこを伝えないためのものでした。ということは、力を伝わりにくくしています(変形することによって、一時的に力をためる)。その結果、車体そのものが電車で立ってる人や風船と同じ状況になっていると考えられます。
 
 つまり、電車の中で起こっていることが、自動車の車体で起こっているということです。我々は、自動車の外から観察しているように思っていても、実は中の世界から観察していたということです。タイヤだけが外の世界ということになりましょうか。状況によって、外と中をよく考えなければならず、いささか複雑ですね。
 
 
 まとめるとこうです。曲線運動向心力によってもたらされ、外の世界の観察では向心力が観察され、中の世界では遠心力が観察されるということです。
 
 
5.重力、浮力、空気抵抗
 図4で書き込んだ力の内、向心力については前章までで扱いました。ここでは、残りの重力、浮力、空気抵抗について考えてみましょう。
 
 最初は重力です。
 
 
 重力は、地球から物体にかかる力です。この力は、他の力と違い、つながっていなくてもかかってきます。つまり、離れていてもかかる力です。そして、物体の全ての粒子にかかってきます。同じように、地球の全ての粒子からかかってきますので、まともに力を書くと、無数の矢印になってしまいます。それでは困るので、地球の全ての粒子からかかってくる力を全て足し合わせて(矢印の足し算)、通常は地球の重心から、かかっているとして力を書きます。図18もそのようにして、物体の全ての粒子にかかる力を模式的にかいたものです。なお、矢印の足し算を詳しく知りたい人は自分で勉強しましょう。一応、第86話にも書いてありますがお勧めしません。
 
 
 物体の全ての粒子にかかる重力も、全て足し合わせて(矢印の足し算)、一本の矢印として書きます。特に、重心が解っているときは、重心から矢印を引きましょう。重心が解らないか、書きにくいときは、適当に書いておきましょう。
 
 今度は、浮力について考えましょう。
 
 
 まず、物体が空気中にあると、空気の分子が衝突してきます。当然のことながら、物体の表面にしか衝突しません。そして、この衝突によって、物体の表面に力がかかってきます。この力のことを「空気の圧力」と呼びます。
 
 
 そして、この圧力を全て足し合わせ(矢印の足し算)たものが浮力です。このときに、物体は、物体の体積分の空気の重さだけ軽くなります。一応、第84話にも書いてあります。
 
 空気抵抗についても、空気の分子が衝突することによって生じる力です。これも当然、物体の表面にかかってくる力です。こう書くと、浮力と同じような力なので、これ以上深入りはしません。
 
 これで一応、図4で書き込まれた力が、どこからどのようにしてかかってくるのかが解りました。
 
 
6.力の分散
 いよいよ、最初の実験結果を考えるときがきました。あっちこっちで寝転んでみると、ごつごつしたところは寝心地が悪く、ふわふわしたところは寝心地がよかったと思います。たとえば、木の床もあまりいいとはいえません。それに対して、草の上や布団などはいいいですね。では、なぜこうなるのでしょうか。
 
 人の体には重力がかかっています。これは、どこで寝転んでも同じです。すると、違いは何かというと、材質の形状硬さです。人間の体は意外と凹凸がありますので、木の床に寝転んでも、接地面面積はあまり大きくなりません。
 
 接地面と重力との関係を考えて見ましょう。重さが100で、接地面が1だとすると、この接地面1に対して、100の力がかかります。もし、接地面が10なら、接地面1あたり10の力がかかります。更に、接地面が100であれば接地面1あたり1の力がかかるだけです。これは圧力の基本です。
 
 元へ戻って、接地面にかかる力は、人間の体重による圧力です。すると、接地面が大きいほど圧力は小さくなりますね。ごつごつしたところや、木の床などでは、接地面が小さくなります。それに対して、草の上や、布団は変形して、人間の体の下側表面に近くなり接地面が大きくなります。当然、接地面が大きいほど、力が分散されて圧力が小さくなります。
 
 これから、圧力が小さく均一なほど寝心地がよくなると考えられます。でるなら、人間の鋳型(いがた)を作ってしまえば、接地面は最も広くなり(体の下半分)、寝心地は抜群によいはずです。
 
 
 この際、鋳型は、何でできていても関係ありません。たとえ、鉄やコンクリートでできていたとしても寝心地はよくなります(全体に均一になるから)。
 
めでたし、めでたし。 (完)
 
 
 
とはなりません。図18を思い出しましょう。人間の体の全粒子に重力はかかっています。すると、体液は重力によって下がってきます。血液のように、心臓という循環用ポンプがあるものだけではありません。リンパ液などは、歩くなど体を動かす方法をとらないとポンプアップできません。ですので、体液が下に溜まって(たまって)くると、寝返りを打ったりして、体の向きを変え、体液を移動させる必要がでてきます。他にも何かの理由で体を動かすこともあるでしょう。
 
 図22の鋳型に入って寝心地がいいのは最初だけです。いずれ拘束(こうそく)されていることに嫌気(いやけ)がさします。鋳型を作る作戦は失敗ですね。
 
 それでも力の分散は役に立つということが解りました。これは実際、色々なところで使われています。今回、なぜか乗り物の話が多いので、そちらの方から例を出しましょう。
 
 戦車はなぜキャタピラーを使っているのでしょうか。かなり昔になりますが、某研究所で、この質問を出したら、「キャタピラーの方がかっこいいから」と答えた奴がいました。ここまで読んでこられた人には明らかですね。車輪よりもキャタピラーの方が圧倒的に接地面積が広くなります。当然、戦車の重量は接地面に分散され、戦車の重力による圧力は小さくなります。それで、ぬかるみや、砂、やわらかい土の上でも移動できるようになります。まっ、工事現場で、ブルドーザーがやわらかい土を盛って、そこを上っていくのを見た人はよく解るでしょう。
 
 
7.力の集中
 前章では、力の分散を考えましたが、それなら、今度は逆に、力の集中を考えましょう。つまりは、接触面の圧力を大きくするということです。
 
 接触している面を大きくすると圧力は小さくなりましたが、接触している面を小さくすれば圧力は大きくなります。たとえば、1の力で、接触面が1だと圧力は1ですが、接触面が1/10だと圧力は10になります。1/100なら圧力は100です。
 
 これが何を意味するかは明快ですね。接触面が小さくなるということは、先が尖って(とがって)いることですから。
 
 
 
 
 同じ力で押しても、木の壁にバットは刺さりませんが、錐(きり)なら刺さります。
 
 他にも、刃物が鋭いというのは、やはり接触面が小さいということになり、小さな力でも、刃に大きな力がかかってよく切れます。よく研いだ刃物の切れ味がよいのはこのためです。
 
 以上、前章と本章で、同じ力でも、接触面を大きくしたり、小さくすることで、圧力を変えることができ、それぞれに色々な使い道のあることが解りました。
 
 
8.寝心地を良くするには
 再び寝心地に戻りましょう。人は寝ていても動くので、鋳型を作って、その中で寝ても、寝心地がよいのは最初だけです。その上、動けないと色々問題が出てきます。それなら、シートの下に、無数の円柱を備え、円柱の先端に圧力センサーを付けて、人の動きに応じて円柱を上下させて、常に均一な圧力になるような寝具を作ったらどうでしょう。
 
 
 いやそれよりも、人の動きを予測して可動するようにしたら快適な寝心地が味わえるのではないでしょうか。本当かな。怪しいなー。元々、人間はあまりよい環境には適応していませんし、これが健康にいいかどうかも不明ですから。
 
 それよりも、今まで懸案事項(けんあんじこう)にしていた向心力の話を書けたことの方が重要です。これが残っていると寝覚めが悪いので。
 
 
 
平成24年11月25日
著作者 坂田 明治(あきはる)
 

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