▲▲ ▼▼

212.雪印乳業集団食中毒事件のその後.9-28-2000

標題の事件に関する私のコメントに対して寄せられた二人の方の考えと意見について、以下に紹介します(ほぼ原文のまま)。

1.脱脂粉乳はどのように作られるか。

私は中堅乳業メーカーのOBです。雪印乳業による集団食中毒について先生の脱脂粉乳原因説をみてそのご賢察にびっくりしました。私は大樹工場製の脱脂粉乳から毒素が検出されるまでは、食中毒の原因は大阪工場の低脂肪乳製造ラインに原因があるのではないかと考えていました。いずれにしてもその原因菌であるスタフィロの由来は、生乳であることは間違いありません。乳牛は乳房の炎症「乳房炎」にかかることがままあり、初期段階では酪農家も気づかず出荷される結果混入することになります。

私の推論は、低脂肪乳は生乳と脱脂粉乳を原料として調整されますが、その製造ラインの仮設配管(バルブ類を含む。なおテレビで汚れが付着していたとして映していたバルブはチャッキ弁と呼ばれるもので、逆流防止の役目をするものです)の洗浄が、長期間行われなかったとのことであり、バルブだけではなく仮設配管全体でスタフィロが増殖し、毒素が産生されたものではないかと考えていました。すなわちその前後に貯乳タンク(テレビで映った背の高いタンク、大きいものは200トン程度の容量)があり、そこではタンクの周囲にチルド水を循環し、乳温を5℃以下に常時維持していますが、配管には見たところ保温装置もなく(これが一般的)、長時間放置すれば当然乳温が上がり、微生物が増殖するからです。

脱脂粉乳の製造工程はご存知と思いますが以下の通りです。

  生乳→加温(40℃)→分離→(脱脂乳・乳固形分9%)→殺菌(100℃以上)→冷却(5℃以下)→貯乳(タンク)→濃縮(乳固形分50%)→噴霧乾燥(乳固形分97%)→クラフト袋に25kgづつ包装→脱脂粉乳

そして報道による大樹工場の事故原因は、製造中ツララの落下により3時間余の停電があり、分離工程の生乳が加温されたまま長時間保持された。停電復帰後この生乳をそのまま通常の工程にのせて脱脂粉乳を製造した。この粉乳の約半数の細菌数が省令の基準を超えていたので、水に再溶解した後新しい脱脂乳とほぼ等量に混合し脱脂粉乳に再加工したが、イレギュラーの製品であるので外販はせず社内用とした。この推論は大筋において正しいと思いますが、一部腑におちない部分もあります。すなわち問題は最初の製造中における停電事故が問題であり、加温?殺菌工程の間には2トン程度の生乳が、40℃程度に加温されたまま滞留したと思われます。停電が復旧し、製造工程を再立ち上げするには3時間プラス数時間を要したと思われます。

大樹工場は国内最大級の粉乳工場であり、当日の製造ロットは粉乳の出来高より生乳換算で200トン以上と推定されます。私が疑問に思うのは、長時間加温保持された生乳は製造ロットの1%程度であったこと、加温保持が5?6時間程度であのような大規模な食中毒を起すほどの毒素を産生するものかの2点です。しかも再加工時に2倍程度に希釈され、さらに低脂肪乳への脱脂粉乳の使用量は7?8%にすぎないのです。

最初の製品に細菌数が多かったのは、どうも停電復旧時の殺菌器の運転に問題があるような気がします。殺菌は通常UHTといって120?130℃数秒で行われるので、セレウスなどの耐熱性菌が多くいてもほとんど滅菌状態となります。殺菌温度が何らかの原因で低下したときは、次工程へ送液しないように自動的に制御する装置は必ずついていますが、再立ち上げの際に人為的な操作ミスによりその機能が発揮されなかった可能性もあります。

蛇足ですが実体験では牛乳によるスタフィロのエンテロトキシンによる食中毒の発生例は、ごくまれだと思います。すなわち生乳中のフローラは乳酸菌や大腸菌群などが優勢であり、中温域に保持すれば酸敗が先行し凝固してしまうので人が飲んでしまうことはほとんどなく、仮に飲んでしまっても害がない場合が多いからです。

したがってスタフィロはHACCPの危害微生物にはあげられていますが、発生例が少ないことから乳業界ではあまり重要視されなかった側面があります。しかし今回の事件は、牛乳・乳製品に新たな危害の可能性を示唆したものとして、今後その対応が求められることになるでしょう。

2.どのくらいの生乳を処理しているか。

まず乳牛1頭あたり1日の泌乳量は平均的に20?25kgのようです。次に生乳1mlあたりの生菌数は、30年前頃は数百万というものがざらでしたが、乳業メーカーの指導もあって現状では数万まで減少し、乳等省令の殺菌乳の基準である5万以下を未殺菌乳でもクリアーできるレベルのものも多いようです。なお乳業メーカーは酪農家へ、生菌数30万以下、白血球などの体細胞も30万以下を目標に指導しているようです。

  牛が乳房炎に罹ったことが判明すると、農協またはメーカーの獣医が抗生物質による治療がおこなわれ、完治から一定期間(抗生物質が検知されなくなるまで)乳の出荷は停止されます。またメーカーもタンクローリー毎に抗生物質の検査を行い、製品への混入を防止しています。したがって乳房炎に罹った牛の乳が混入するのは、罹病の極く初期段階のものと思いますが、その率がどの程度かは存じません。

  粉乳製造のロットについてですが、大樹工場ほどの大規模工場では1日8時間稼動として生乳換算で200トン(約八千から一万頭の牛から集荷)程度は処理していると思います。さて生乳200トンでどれだけの脱脂粉乳が生産できるかですが、約10%はクリームとして分離され、バターやクリームチーズなどに加工されるので、脱脂乳としては180トンとなります。

  脱脂乳中には乳固形分が9%程度含まれ、脱脂粉乳は水分が5%まで乾燥されることから、180トンの脱脂乳から16トン、25kg袋にして650袋の脱脂粉乳が生産できる計算になります。大樹工場の問題の生産日には900袋が作られたとの報道であり、これから逆算すると生乳換算で300トン(一万二千頭から一万五千頭の牛に相当)弱処理されたと推定されます。

  これまでの原因究明でもよくわからないことは、前述のように1mlあたり数万の菌数で、しかも乳酸菌や大腸菌群が優勢の中で、長時間中温保持されたときに酸敗せず、スタフィロが毒素を産生するまで増殖したかです。おおかたの乳業技術者はこの点について疑問をもっていると思います。

3.関西地区の反応。

  私は高校生です。一万四千人以上が被害を訴えた雪印乳業による集団食中毒事件について、私の考えを送ります。

私の住む神戸市では店頭に雪印乳業の製品はほとんどといっていいほど並んでいません。これは私たち消費者の間に広がった根強い不信感が決して拭われていないということの現れでしょう。

  私が一番驚いたのは、厚生省があまりにも安易にHACCP(総合衛生管理製造過程)の承認を行っていたことです。厚生省は、いったんパック詰めした加工乳を新たな加工乳の原材料として使う再利用の方法は省令に違反するとの見解を示しています。しかし、こうした違法再利用をしながらHACCP承認を受けていたのは、大手や中小の乳業メーカーなどの複数の工場に及んでいます。だとすれば、厚生省は工場の製造過程などを調査することなくHACCP承認をしていたということになります。消費者が市場に溢れている商品の中からできるだけ安全なものを選べるように、と設置されたHACCPではなかったのでしょうか。ミスなどという言葉で済ましてよい問題ではないでしょう。厚生省は7月14日、事故対策本部の終了後の記者会見で、加工乳を加工乳の原料として再利用することは「食品衛生法に違反する」と強調しました。省令が加工乳の原材料を限定し、加工乳を除外していることを根拠に挙げています。それならば、なぜ食品衛生法に違反する製造工程をHACCP承認したのでしょうか。これに関して、森田邦雄・厚生省乳肉衛生課長は朝日新聞の記事の上で、「事実とすれば承認の際のミス。事実関係を確認したい」としています。ミスですましてよい問題ではないでしょう。今回の食中毒事件の責任の一端は厚生省にあると思いますが、省としての自覚は随分と薄いように思われます。厚生省は消費者に対して謝罪すべきだと思います。

  しかも、厚生省は原因の特定も済んでいない、つまり再発防止に十分な対策が取れているとは思えない時期であった8月2日に大阪工場を除く20工場の安全宣言を出しています。ということは、後に問題になる大樹工場もその時安全だと宣言されたわけです。あまりにも無責任ではないでしょうか。「原因究明合同専門家会議」を大阪市と合同で設置したのは8月28日。実に事件から2ヶ月後のことです。

  雪印乳業の対応の遅さも問題です。消費者から雪印に最初の苦情電話が入ったのは6月27日ですが、雪印が低脂肪乳の回収を始めたのは同月29日。本来であれば何らかの苦情電話があれば迅速に対応し、本当に雪印の製品で食中毒になったのかどうか確認することができなくても消費者に対して公表して製品の回収に踏み切るべきでしょう。それが食品会社としてのモラルではないでしょうか。さらに、事件後の雪印乳業の姿勢にも問題があると思います。余りにも誠意の感じられない言動が多すぎましたし、内情を隠そうとする自己弁護体質もあらわになりました。そんなに後ろめたいことばかりやっているのかと思っていたら、やはりそうだったようで、品質保持期限の改ざんが明らかになりました。

  一体これから何を信じたらいいのか分かりません。企業も信じられず、中央省庁も信じられない。消費者の権利といえども行使できる土壌がなければ行使することは不可能です。私たちが製造しているのではない以上、企業や監督省庁のいうことを信じざるをえない立場なのですから。企業が私たちを欺くのは簡単なことです。しかし、それは決してしてはいけないことです。どんな大企業でもそれを構成するのはあくまでも個人であり、そして個人単位でみればその人も消費者なのです。今回の問題は雪印乳業だけの問題ではありません。今一度、企業は消費者との信頼関係を見直すべきだと思います。

  大樹工場では生乳換算で300トン弱を処理して脱脂粉乳を製造していたと仮定すると、おおよそ毎日一万二千頭から一万五千頭の乳牛からの生乳が使われていることになります。どの程度の乳牛が炎症「乳房炎」に罹っているか判りませんが、停電の間温度制御に支障をきたしたとしても、たかが4時間程度の時間(30分に1回分裂するとして、4時間では256倍にしか殖えない)で300トンの牛乳を相当数(私の推測では数百万個)の黄色ブドウ球菌で均等に汚染することが出来るのでしょうか。少なくとも数拾パーセントの乳牛が乳房炎を患っているのであれば話は別です。とすると、生乳に混在していた黄色ブドウ球菌が原因でなく、停電する前にシステム全体が既に汚染されていたと考えるべきかも知れません。どなたかこのへんの話をもう少し整理してくださいませんでしょうか。

▲▲ ▼▼



Copyright (C) 2011-2017 by Rikazukikodomonohiroba All Rights Reserved.