76.ウイルス性出血熱とはどんな病気ですか?. 1-5-98.
先日のニュース報道でまたアフリカでとてつもなく恐い急性の出血熱の患者が多数発生し、現地の医師の話では「エボラ出血熱」とは違うらしいとのことでした。私もこのニュースは聞いていましたので、報道内容は知っていました。アフリカに駐在した経験のある商社マンの方より、ウイルス性出血熱とはどんな病気なのかとの問い合わせのメールを頂きました。 この類の疾病は、現在新興病(新たに出現した病の意味)と呼ばれ、世界保健機構WH Oも最大級の警告を発しています。フィロウイルスの解説を計画していましたので、その前に質問のあったウイルス性出血熱を説明します。 パート-1.ウイルス性出血熱とは. ウイルスの感染を受けて、発熱性の症状と皮膚や粘膜を含む全身の表面からの出血を主な症状とする一群の疾患をウイルス性出血熱viral hemorrhagic feverと総称します。原因となるウイルスも単一でなく、その上ウイルスの伝播方式も一様ではないようです。皮膚の出血斑は、麻疹や天然痘のような発疹性ウイルス病と違い、点状の出血斑と斑状の出血の混合であり、毛細血管の破壊、血液凝固の阻害などか複雑に関与し、疾患ごとに出血の原因も異なるようです。 ウイルス性出血熱の共通している点は、血液の凝固に大切な血小板と身体を外敵から守るために必要な白血球の減少で、死因は原因不明の出血による血液減少性シュックで、数時間で容態が急変して死亡することも珍しくないようです。 また重症の肝臓の障害、広範囲な内出血や外出血、全身の血管内での血液の凝固DIC、脳症や肺炎、腎臓の障害なども観られます。 ウイルス性出血熱が疑われる患者がでたら、医療関係者は、患者からの感染を防ぐ目的で、ゴム手袋、外科用マスク、ゴーグルを着用し、患者の血液の一部が自分の皮膚や粘膜に触れることを防ぐ必要があるほと感染力が強い病気です。 パート-2.原因ウイルスは何種類あるか. 現在解っているウイルス性出血熱だけでも、次の表に示す病気があり、それぞれに特有な原因ウイルスがあります。
病気の種類は13種類で原因ウイルスは各々異なりますが、ウイルスは4科(分類上属するグループを意味する)に限定され、その病気の存在する分布はその地方の森林地帯が多いようです。日本国内には、韓国の漢江にちなんで命名されたハンターンウイルスが引き起こす腎症候性出血熱、別名韓国型出血熱があります。このウイルスの自然宿主は、野ネズミのようです。 パート-3.どの出血熱が一番恐いか. ラッサ熱、マールブルグ病とエボラ出血熱の3疾患をアフリカ出血熱と総称することもあります。 症状の重さと致命率の高さでいうと、ウイルス性出血熱の中では、アフリカ出血熱3種が最も恐れられるが、原因ウイルスと疾患の世界的分布からいうと、デング出血熱、腎症候性出血熱、黄熱とリフトバレー熱の4種が最も広い群を形成する。容態が急変することからいうと、デング出血熱やラッサ熱の2種が数時間で突然と死亡することもあります。 近年旅行者として、ウイルス性出血熱の常在地に行き、帰国後に発症する者の可能性が増えているのに国内では診察する医師にこれらの疾病を観た者がなく、その上検査機関も経験がない等が原因で、ウイルス性出血熱の患者がでると医療機関に混乱が起こる可能性が考えられます。このような貧弱な医療体制が最も恐ろしいのかも知れません。 これらの疾病に共通する恐いことは、ネズミ等の野性動物や蚊のような昆虫がこれらの疾患の拡散に関係することです。デング熱や黄熱のように、森林地帯に生息するサル等の野性動物が自然の宿主としてウイルスを保有し、動物の血を吸った蚊がウイルスをヒトに媒介する疾病の予防と撲滅は腰囲ではありません。 新しいウイルス性出血熱にはワクチンも開発されていませんし、その上さらに熱帯雨林に生息するどのような動物がウイルスの自然宿主なのか、蚊のような昆虫が媒介動物として介在するのかも解っていません。熱帯雨林が地域住民の経済的理由から大規模に伐採されると、そこに生息している野性動物の生息地が脅かされ、その上地域住民との接触も生まれてくることが、これらの新興感染症を生み出す背景にあります。従って、インフルエンザや麻疹等のような通常のウイルス感染症と根本的に違って、地域社会の経済性と住民の健康維持とどちらを優先させるかとの禅問答のような矛盾に突き当たり、その結果予防する手段の検討や研究も充分ではありません。 利己的な発言になりますが、普通の日本人に限定すれば、そのような恐い感染症の存在する地域に行かないことが、最大の予防策と考えられます。しかし、企業人としてそのような地域に駐在しなければならない方々はどうすれば良いのでしょう。私に質問を寄せられた方もこの範疇に入る人でありました。 海外経験が豊富で、この辺の最新の事情にも詳しい渡辺義一先生を紹介して、この項目を終わりにします。渡辺先生は、北里研究所から米国テキサス大学に転勤し、その後スイス・ジュネーブの世界保健機構WHO感染症部長を長年務め、さらにクエート国の厚生省と国王の特別顧問をなされた経験のある感染症の専門家です。この渡辺先生が海外へ赴任される方々に対する相談にのっておられます。まず先生が書かれた書籍を以下に紹介します。これを読まれて、それでも聞きたい事柄のある方は、直接渡辺先生にコンタクトしてはいかがでしょう。
★第五版 「健康にくらすための手引き―先進国・途上国への出国準備から帰国まで―」 |