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82.ウイルスの検査入門 (総論). 2-9-98.

 「カゼとインフルエンザとはどう違うのか」、「インフルエンザウイルスのA型とB型とは何ですか」、「H1N1とH5N1はなにが違いどう調べるのか」、「ウイルスの検査はどのように行われるのか」などという質問が多いので、インフルエンザおよびインフルエンザウイルスについて、まとめて説明しようと計画しています。

そのためには、ウイルスによる病気は、どのように診断されるのかを簡単にでも理解して貰えないと、全体としての説明が難しくなります。このような理由から、ウイルスによる病気の検査について、全体的な総論の解説を試みます。検査の方法などについては、次の各論で説明する予定です。

 

パート−1.ウイルス感染症の実験室内診断

「77.病気を起こすウイルスはどのくらいありますか?」でも触れましたが、ハシカを例外として、ほとんどのウイルスによる病気は症状からだけではなんのウイルスによる病気かは判りにくいのが現状です。例えは、エイズは、感染初期は風邪様症状、発熱と下痢等の症状ではじまるようです。風邪様症状、発熱と下痢等の症状からのみでは、原因として呼吸器系ウイルスか腸管系ウイルスの感染を疑うことになります。呼吸器や腸管で殖えるウイルスは複数存在しますから、そのなかのどのウイルスかを確認することが必要になります。

原因ウイルスを特定して初めて、「XXウイルスの病気」と診断がつけられるのです。病気を確定するためには、どうしてもウイルスについての検査が必要で、検査によって原因ウイルスを特定することを、ウイルス感染症の実験室内診断と言います。俗にいうウイルスの検査です。

 

パート−2.ウイルス検査の目的

  一般論としてウイルスの検査は、どのよう人がどのような時に必要となるのかを最初に説明します。別な表現をすると、ウイルスの検査の目的はなにかということになります。ウイルスを対象とする検査は、次のような幾つかの目的で実施されます。

1. ウイルス性疾患の診断:

脳炎や肺炎を引き起こすウイルスは沢山知られています。単純ヘルペスウイルスの感染による脳炎やサイトメガロウイルスによる肺炎などは、感染初期であれば治療が可能です。感染がある程度以上に進行してしまうと抗ヘルペス薬による治療も期待できなくなります。そのため、速やかにヘルペスウイルスによる感染であることを特定する目的で検査を実施します。

2. 治療効果の判定:

肝炎の原因ウイルスは、複数存在します。そのうちC型肝炎ウイルス(HCV)による肝炎には、インターフェロンによる治療が有効な場合とあまり効かない場合があるようです。インターフェロンが有効であるか、またどの程度良くなっているかを知る目的で検査を行います。

3. 輸血や手術対策:

エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)やHCVなどのように血液に存在するウイルスによる輸血や血液製剤、と手術や臓器移植等による患者や医療従事者への感染を防ぐ目的で、迅速にウイルスの混入や存在を見極めるために検査を実施します。

4. 妊娠診断:

母親が罹っている病気、例えば風疹、白血病やエイズなどが子宮内や産道内での胎児の感染やほ乳や育児による乳幼児の感染などの可能性を検診し、胎児や乳幼児の健康障害対策として検査が行われます。

5. ワクチンの接種対策:

ワクチン接種前に接種する必要があるか無いかの判定やワクチン接種後の効果を判定する目的で検査を行います。

6. 院内感染対策:

患者や医療従事者の安全体策の一環としての検査などがあります。

 

  ウイルス検査の目的とウイルスによる汚染経路をまとめて表1と表2に示します。

尚、以下の表中ではウイルス名は、以下のように略称で示します。HSV: 単純ヘルペスウイルス、CMV:サイトメガロウイルス、VZV:水痘・帯状疱疹ウイルス、EBV:EBウイルス、RSV:RSウイルス、HRV:ヒトロタウイルス、HBV:B型肝炎ウイルス、HCV:C型肝炎ウイルス、HIV:ヒト免疫不全ウイルス、HTLV:成人T細胞白血病、RV:風疹ウイルス、MEV:麻疹ウイルス、 MUV:ムンプスウイルス、PVポリオウイルス、ADV:アデノウイルス.

 

表1.ウイルス検査の目的

検査の目的      主な対象ウイルス

ウイルス性疾患の診断  HSV CMV VZV EBV RSV HRV

治療効果の判定     HSV CMV VZV EBV RSV HRV

輸血や手術対策     HBV HCV HIV EBV CMV HTLV

妊婦の検診       RV HBV HCV HIV HTLV

ワクチン接種対策    RV MEV MUV PV HBV

院内感染対策      HBV HCV HIV VZV HSV CMV HRV ADV RSV

 

表2.ウイルスの汚染経路

血液を介した伝播

HBV HCV HIV HTLV CMV EBV

接触による伝播

MEV MUV VZV HSV HRVエンテロウイルス

空気による伝播

インフルエンザウイルス RSV RV EV

医療機材や飲食物を介した伝播

HBV HCV JHIV HTLV ADVエンテロウイルス 小型球形ウイルス

 

パート−3.ウイルス検査の方法

医療機関で最も広く日常的に行われているウイルス検査は、ウイルスの証明と血清中の免疫抗体の測定です。しかし、対象とするウイルス全体で現在行われているウイルス検査は、以下に記すように大別して4種類の方法が用いられています。これらの検査法については、項目を改めて各論で説明します。

 

1. ウイルスの分離証明:感染していると疑われるウイルスを患者から直接分離して証明する方法。これは、感染部位からウイルスを含む材料を、ウイルスを殖やすことが出来る試験管のなかで培養した細胞に接種し、細胞で増殖させて証明することです。ウイルスの培養は、特殊な施設、試験にかかる時間と費用を必要とします。

2. ウイルスに対する免疫抗体の検出:患者血液に感染したウイルスに対する免疫抗体を検出・定量する方法。感染を受けてウイルスが増殖すると生体は異物であるウイルスを排除するために抗体を作ります。免疫抗体が存在するか、また存在するとしてらどの程度の量が作られているかを抗原抗体反応という特殊な試験法で証明することです。抗体検出は、バイオの最新技術を駆使し、迅速且つ微量な抗体を把握できるようになりました。しかし、免疫抗体は、ある程度の量以上に増量されるまでに1週間以上の日数を要するので、実際には感染していても感染直後では検出されないことがあります。

3. ウイルス抗原の検出:ウイルス粒子またはウイルスの構成タンパクなどを抗原として検出する方法。B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスやヒトロタウイルスなどのように、試験管のなかで増殖させられないウイルスには、抗原検出が日常検査になっています。

4. ウイルス遺伝子の検出:ウイルスの遺伝子である核酸をバイオの先端技術を駆使して、試験管のなかで増量して検出する方法。原則的には、1粒子のウイルスが存在すれば、短時間で検出が可能です。しかし、実際には核酸の取り出し方や高価な酵素の使用など難しい問題もあり、全てのウイルスに適用されるとは限りません。魚貝類などによる食中毒の原因となる小型球形ウイルスでは、専らこの方法が用いられています。

 

 私の所属する学部の学生に、ここに述べたような内容を概説する講義を私は担当しています。その時に使用する教科書の内容を、一般向けに易しく解説したつもりです。しかし、微生物学や免疫学の基礎知識がないヒトには、ここに記載した説明はかなり難しいと思います。

 次に2回連続で検査の方法とその時に用いられる専門用語を説明します。それも簡単には理解できないかも知れません。しかし、とにかく全体を一度説明しないと、送って貰った質問には答えられないのです。理解できなくても、記号だと思って今しばらくおつき合い下さい。

 

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