106. 和歌山のカレー事件などで思うこと.
その1.毒殺事件は食中毒です. 楽しい夏祭であるはずであった和歌山でのカレー事件と仕事前の朝の一杯による新潟でのコヒー事件は、連日のように原因追求とその後の経過がマスコミで報道されています。なんともヤリキレナイ気持ちにさせられる事件です。 ほぼ同時期に起こされた無作為的な毒物による殺傷事件に共通している事は、ともに普通の人なら知らないような亜ヒ酸化合物とかチッ化ナトリウムなどと呼ばれる毒薬による事件であります。 テレビの報道によると、和歌山での事件で患者さんを診たある一部のお医者さんは、カレーを食べてから症状が出るまでの時間があまりにも短いので、これは普通の食中毒とはなにか違うと感じたようです。この普通の食中毒という表現は、O157などの細菌による食中毒とは少し違うということのようです。 食中毒とは、飲食物の摂取によって起こる急性の胃腸炎のことを意味します。食中毒の原因物質としては、
が指定されています。和歌山と新潟の化学薬品による事件は、原因物質と摂取経路からいうと食中毒になります。 亜ヒ酸やチッ化ナトリウムなどは、猛毒でヒトおも殺せる殺傷力を持った化学薬品であることを改めて知らされました。私達のように研究室で生活している者は、青酸、亜ヒ酸やチッ化ナトリウムなどは身の回りにいくらでも在る薬品ですから、青酸は別にして、それなりに注意はしていますが、それほど厳重な管理はしていませんでした。今回の事件で、これらの薬品の管理を今後はもっと厳重にする必要を、恥ずかしい事ですが知らされました。 それでは、これらの薬品の毒性は、どの程度に強いのかを調べましたので、以下に簡単に紹介します。 その2.毒物と毒素の毒力の違い. 青酸化合物:青酸は赤血球の中に存在し酸素呼吸に欠かせないヘモグロビンと強く結合します。青酸と結合したへモグロビンは鮮紅色になり、酸素が結合できなくなります。そのため青酸の毒作用は、即効的に現れます。青酸カリKCNの致死量は、体重50Kgのヒトでは150-300mg、ラットでは体重1Kg当たり10mgといわれています。1グラムでヒトを5人殺せることになります。 亜ヒ酸化合物:王侯貴族の時間を掛けた暗殺に昔は使われていたようです。現在は鏡の製造などに使われているようです。我々の研究室では、あまり使いませんので、保管していません。調べた限りヒトへの毒性は判りませんでした。亜ヒ酸カリKAsO2の毒性はラットでは体重1Kg当たり14mgと書いてありました。この薬品も青酸カリに近い毒性があります。 チッ化ナトリウムN3Naは、防腐剤として使いますから私達の研究室にもあります。細菌に対して毒なのですからヒトにも毒性があるのは考えてみれば当たり前のことです。しかし、ヒトを傷つけるためにも使えるとは、うかつにも知りませんでした。この薬品のヒトに対する毒性は見つかりませんでしたが、ラットにたいする毒性は青酸よりは少し弱く、ラットの体重1Kg当たり45mgと書いてありました。 猛毒といわれるこられの化学薬品の毒性は、1グラムで5人のヒトを殺せる程度であることが判りました。少し甘いコヒーを好む人は、一杯のコヒーに砂糖を10g程度入れますから、コヒー一杯分で50人もの人を殺せることになります。 ところが、「46.世界最強の細菌」の項目にも書きましたが、食中毒を起こすボツリムス菌の毒素は、1グラムで2千万人程度のヒトを殺す程強力です。化学薬品の猛毒と細菌の猛毒とは、比較にならない程大きな違いがある事を理解して頂けること思います。細菌による食中毒は、本当に恐いのです。 細菌の毒素ほどは強力でなくても、即効的に毒性のでる化学物質も恐いですが、ごく微量で持続的・慢性的に作用する環境ホルモンも怖いです。人間も個人の存在になると、怖い物のだらけの大海原に漂っている小さな小さな小船みたいな存在に感じられます。 |