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135.水道水の殺菌力. 3-5-99.

@ 水道水はどうし不味いのか。

 ある会社が「美味しい水を作る家庭用浄水機」を発売したところ、消費者団体からその浄水機で作った水には「雑菌や虫が混入している」との苦情が寄せられた、との浄水機の事故に関する報道がありました。これを記憶している方も多いかと思います。この事故のことについては、最後にまた触れます。

 一昔前の水道水は、各家庭で井戸水を使っていた時代の飲み水とたいさなく美味しい水であったと思います。その証拠として、飲み水を買って飲むということは考えすらなかったと思います。

 地方の都市の多くでは地下水を汲み上げて水道水として使っていた時代もあったようです。しかし、地盤沈下の原因になることから地下水の使用は無くなり、河川やダム等から水を得るようになったようです。上水道が整備されても下水道の整備が遅れ、家庭排水の流入や富栄養化などにより水源の水が汚染される時代となりました。そこで、藻やプランクトンなどの生き物を殺す薬剤の使用、水に溶けているいろいろな物質を取り除くための除去材の使用、消毒するための塩素濃度を高くする水処理などから、殆どの地域の水道水は「へんな臭いがする、臭い、不味い」ものになってしまいました。

 そこで登場したのか、性能は機種により異なりますが、雑菌、塩素やカルキなといろいろな物質を除去する性能をもつ浄水機です。飲み水を美味しくするのは結構なのですが、塩素を取り除くことは細菌学の立場からすると必ずしも結構とは言えません。塩素は強力な殺菌作用を持っているからです。

A 生野菜などの洗浄法。

 病原性大腸菌O157による集団食中毒が発生したとき、カイワレ大根がその原因でないかと取りざたされました。その結果、所沢市でのダイオキシン報道時のホウレン草と同じく、カイワレ大根が売れなくなったようです。私個人としては、カイワレ大根をあまり食べませんので、なんの影響も不自由もありませんでした。カイワレ大根の生産者、カイワレ大根を好きな人や食材としてカイワレ大根を使う人にすると大変な問題であったと思います。

 ご夫婦が食中毒などを専門とする細菌学者の人から、面白い話を聞きましたので紹介します。その細菌学者の家庭では、カイワレ大根がO157に汚染されているとの前提で、良く食べているそうです。その先生によると、カイワレ大根を水道水に一晩漬けおきしてから食べるのだそうです。水道水の殺菌力を利用して、付着しているかもしれない大腸菌を消毒した後、食膳に出しているのです。これは、皆さんも試してみては如何でしょう。実行する価値のある情報と思います。

 

B 塩素濃度の確認が必要。

 水道水中の塩素濃度とその殺菌力について、簡単な試験を実施したのでその成績について説明を加えます。水道法によると末端での塩素濃度は、0.1ppm(1リットル中に0.1ミリグ゙ラム)以上と規定されています。私共が住んでいる相模原市の水道水の塩素濃度は、約0.6ppmです。汲みたての水道水、および塩素を含まない精製水で10倍(0.06ppm)と100倍(0.006ppm)に希釈した水道水を準備し、その各々に大腸菌と黄色ブドウ球菌を1ミリリットルあたりに約10万個宛て添加して、60分後の生残菌数を測定してみました。生の水道水では約10万個の大腸菌も黄色ブドウ球菌も殺されて、1個の菌も検出されませんでした。塩素を10倍に薄めた水道水での生残率は、大腸菌で約25%、黄色ブドウ球菌では0.05%になりました。100倍に希釈した水道水での生残菌数は、出発点の菌数と同じで全く殺菌力は証明されませんでした。塩素濃度を10倍に希釈した水道水の塩素濃度は0.06ppmでしたが、普通の水道水であれば原則として塩素が0.1ppm以上は含まれている筈ですから、殺菌力はもう少し強いことが期待できます。

 水道水は、10万個の大腸菌や黄色ブドウ球菌を1時間以内で完全に殺す消毒力があることになります。しかし、少しでも塩素濃度が低くなると、水道水の殺菌力は菌種によってはかなり減弱することを示しています。10万個という菌数は、実験上の条件で実際の値とは無関係です。

 ところが、塩素やカルキ成分を取り除く機能が付いた浄水機を通した水道水の塩素濃度は、限りなく零に近いですから、浄水機を通した水道水の消毒力は殆ど期待できません。生で食べる野菜や果物は、生の水道水で良く洗うことが各家庭でできる食中毒を防ぐ方法と思われます。浄水機の水は使わない方が賢明と思います。

 最初に記載した「美味い水を作る浄水機」を通した水に雑菌や虫などがたくさん見つかった事件は、どうして起こったのでしょう。浄水機の構造や性能に本質的な問題があるのかも知れません。しかし、もしかすると浄水機の問題とは別に、雑菌や虫が見つけられたケースは、マンションのような集合住宅で発生していたことも考えられます。なぜならば、集合住宅の場合は必ず大きな貯水槽に水道水を一端貯めて、そこから各家庭に配水されています。その貯水槽や配管などまたはその周辺になにがしかの問題があって、塩素濃度が極端に低くなっていて、貯水槽の水道水に既に雑菌や虫が繁殖していた可能性が考えられるからです。

 一般に貯水槽の内部は、構造上掃除がとてもし難くいこともあり、更にキチント管理されてない貯水槽ではネズミの死骸なども見られ、飲み水から受ける予想に反して汚いようです。貯水槽を清潔に維持管理しないと、どのような優秀な浄水機を購入しても、その性能が発揮されるとは限らなくなります。

 

 水道水は殺菌力があります。特別な目的もないのに、むやみに塩素を取り除き、殺菌力を弱くすることは考え直しましょう。

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