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136.栄養士と微生物. 3-6-99.

 

  1. 学校給食と集団食中毒
  2.  学校給食に携わっている人達から、食中毒を防ぐ知恵や食中毒を起こす細菌の特徴などについての質問は、病原性大腸菌O157による集団食中毒事件が多発した時期には、大変な数にのぼりました。

     学校給食を担当している栄養士や調理に携わっている人達の質問の中には、微生物を専門にしている者としては不思議に感じることが多くありました。例えば、抗菌加工商品では何が良いのか、浄水機はどのようなものが良いのか、イオン水の抗菌効果はどの程度なのかなど新商品の購入に頭がいってしまい、微生物の基本的な事柄を学習する方向に頭が向いてない人達が多くいたことでした。

     抗菌加工した商品について、どのような抗菌材が良いのか、またどのような加工材が良いのかなど各論的な質問を貰っても、私は良く判りませんから本当は答えに困ってしまいます。それで、どのような抗菌材のものを使うかよりは、強力な抗菌作用がある商品を購入してもどのように使うかその使い方がより重要な問題でしょうと答えていました。しかし、良く判らないのは、どうしてそれほどまでに抗菌材などに頼りたいのでしょう。イオン水や抗菌加工商品の使用を決して否定はしませんが、それよりも水道水の殺菌力を忘れないで下さいと言いたいのです。

     

  3. 栄養士と微生物学
  4.  学校給食で子供達に何を食べさせるか、栄養のバランスを考慮して献立を作り、さらにどのように調理し盛り付けるのか等を担当するのが栄養士と呼ばれる専門職の人です。

     栄養士の資格は、栄養士養成校として認定されている大学などで栄養士法で定められている教科目を履修すると卒業と同時に取得できるようです。管理栄養士の資格を取得するには、国家試験に合格する必要があるようです。栄養士を養成する大学、短期大学や専修学校では、微生物の講義と実習を履修しなくてはならないことに栄養士法で定められていると聞いています。微生物学を勉強した筈の栄養士の人達が、食中毒を起こす微生物には細菌とウイルスがあるそうですが、どのように違うのでしょうかと質問をしてくることがあります。

     栄養士養成校でどの程度微生物に関する勉強をしているのかを知るために、インターネットを使ってカリキュラムを調べてみました。ごく一部の大学や短期大学などでは、微生物学と微生物学実習という教科目がありました。しかし、多くの養成校のキリキュラムには、微生物と言う文字の教科目は見つかりませんでした。

     そこで、ある大学で教授をしている友人に「栄養士になるために微生物学の講義はないのですか」と質問をしてみました。「うちの大学では私がいるのですから微生物学の講義と実習をキチントやっています」との返事でした。ホームページで見る限り「カリキュラムに微生物学が記載されていない」大学などがありますがとの私の質問に、「食品衛生学または公衆衛生学などで微生物学を教えているところが多いです」と友人は話していました。

     結果的に判ったことは、栄養士の資格を持っている人達の多くは、栄養学や食品学の勉学が中心で、あまり微生物のことは教えられていないようです。

     

  5. 学校給食と集団食中毒

 山から自分で取ってきたキノコを食べて家族が食中毒になる場合もありますが、食中毒の特徴の一つは、集団で発生することが多いことです。レストランや宴会場などで集団で食中毒になることも勿論ありますが、食中毒になった患者数から見ると学校給食が原因の場合が圧倒的に人数は多いのです。

 病原性大腸菌O157による集団食中毒は、まさに学校で出された給食が原因でありました。学校を管轄する教育委員会や市町村長に集団食中毒の責任が問われる場合もあったようですが、直接的な責任は栄養士や調理師などの現場の方々でありましょう。

 栄養士は、一般の素人は献立から調理、配膳まで全ての過程の責任者と考えているかも知れません。ところが、栄養士は、栄養学や食品学が専門で、衛生学や微生物学の専門家ではないとの反論をたちまちに受けそうです。

 私の年代の者は、給食というものを経験したことがありませんが、一昔前までの給食は、その小中学校の1学校が単位となって地元の商店から食材を購入し、学校の調理場でその日のうちに調理して、生徒達に出来たてを食べさせていたのだと思います。ところが、経費削減やその他の理由から、現在は広域給食センターが一括して食材の購入から調理までを行い、各学校に車で配達するシステムに変わっているようです。

 学校単位で給食に責任を持っていた時は、各家庭で調理する程度の衛生的な配慮でも充分に安全であったのでしょう。しかし、工場のような施設で何千人分もの食事を準備するシステムを有効に稼動させるには、「大量の食材を広範囲の地域より購入し、大量生産した料理を適当な人数に合わせて小分けし、昼食時に間に合うように届けておくこと」が前提となりましょう。その結果、一時的にしても事前購入、事前料理、保管という時間的な過程が生まれます。この過程の微生物学的な管理と監督が以前より増して重要な事柄になると思います。

 今後も学校給食が原因で集団の食中毒が発生する可能性はあるのでしょうから、栄養士の資格を取得するには、ごく一部の大学等で既に実施しているように、微生物学に関する講義と実習を必修科目に指定した方が良いのではないかと私は考えます。厚生省をはじめ栄養士養成施設も微生物学を必修科目に指定することを検討してみては如何でしょう。

 

 一昔前は生徒の母親が当番で給食の準備に携わっていた時代もあったと聞きます。現在よりは、衛生的な施設や知識は乏しく貧弱であっても集団食中毒は発生しなかった。栄養士の方々の責任だけではないことは明らかですが、基本から考え直すことも生徒達の健康維持に必要なのかもしれません。

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