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185.グルコース時計の出現.3-13-2000.

1.Glucose Watchの実用化

米国医師会雑誌《282 (19):1938-19441999》に腕時計型自動グルコースモニター装置「Noninvasive Glucose MonitoringComprehensive Clinical Results」という報告が掲載されています。私は、腕時計型検査器具の出現は、何年か先の将来は可能であろうと緊迫感もなく漫然と考えていました。しかし、今年から腕時計型検査器具のグルコース時計が米食品医薬品局(FDA)から認可されて市場に登場してくるらしいとは、考えてもいませんでした。少しショックキングな話題なので、自分たちの将来と重ね合わせて考えてみたいと思い紹介します。

  米国のCygnus社は、腕時計型グルコースモニター装置(Glucose Watch, Automatic glucose biographer自動グルコース分析機)を開発した。Glucose Watchは、皮膚に向けて微弱な電流を流し、微量のグルコースを経皮的に抽出・測定するとあります。

  この装置の精度は、92例の糖尿病患者を対象に血糖値をモニターし、指先から採血した血液サンプルでの実測値と比較する試験を実施した、その結果は、モニター値と実測値は「非常に近似(r=0.88)」していることがわかった。FDAは近いうちに承認するようです。

  Glucose Watchの最大の魅力は、手首に装着するだけで、皮膚に傷をつけず痛みを与えないで連続的に血糖値が測定できる特徴てあると思います。この装置は、皮膚の温度や発汗が皮膚の電気伝導率を狂わせる可能性があり、また汗にはグルコースが含まれ、さらに低血糖時には発汗することが多いので、これらが原因で読み取り値が不正確にならないように感知センサーを装備され、更に血糖値が設定値より低下すると警報ブザーがなるようにも設計されているようです。しかし、通信機能がついているのかは記載されていませんでした。

  この装置の特徴は、皮膚に傷をつけて採血する必要がなく(このことの意味は計り知れないインパクトがあると思います)、1時間に3回の頻度で最長12時間連続的に測定が可能であり、ダンパクなどの干渉を受けないなどか挙げられています。新規で且つ最大の特徴はなんでしょう。素人の私が思うことは、「血液は単にグルコースの輸送媒体であって、グルコースは末梢組織で利用されるため、皮膚直下の末梢血糖値を測定するほうが血流中の血糖値を測定するより意義は大きいのではないか」ということです。検査の方法と解釈が基本から違うのですから、従来法は競争相手にならなくなるのではないでしょうか。

2.Glucose Watchの出現で考えたこと

  1)臨床検査部の存続意義:受けた印象の第一は、臨床検査の先行きを暗示しているのだということです。心電計も携帯型が既に一般的になっているし、血圧も指を入れると計れるし、体温、体重や心拍数も黙って座れば測定でき、妊娠診断もトイレ内で自分自身で行えるように既になっています。これらのことを総合的に考えると、化学検査、生理検査や形態系検査も「マジックボックス」が代行し、かなりの検査は自宅で日常的に計測でき、さらにコンピューターやインターネットで診断される時代の到来が直ぐ近くまで押し寄せてきているように思えます。これは、数年前には単に将来の夢として語られ、また学生に勉強する必要性を説く代わりの脅かす手段でしかなかったと思われます。

  2)社会の受入:Glucose Watchやトイレ内簡易診断法は、国民からは絶対に受け入れられる志向性を持っていると思います。その理由は、現在行われている検査は、検査を行う側の都合で行われていると考えられるからです。別な表現をすると、最大の目的は経済性優先の医療人のための検査であって、いかに患者に苦痛を与えてもそれはあまり問題にされない現状認識の甘さと体質にあります。例えば、MRI検査を受けた経験のある人はよく判る筈ですが、あのけたたましい振動や騒音からくる恐怖感並びに閉塞性は耐えがたい代物です。構造的に振動と騒音は避けられないとしても、被検者の立場を考えているとは思えません。これが医療人の本質なのでしょう。

  3)次に起きること:次ぎに頭に浮かんだことは、Glucose Watchやトイレ内簡易検査が主流になることの意味はなんであるかという疑問点です。その答えは、簡単です。今後ますます臨床検査技師や中央検査室は不要となり、検査センターも淘汰される時代への移行が加速されると思います。緊急検査を別にして、ルーチン検査は「マジックボックス」と「ロボット」が検査技師や検査センターに代わることは間違いないでしょう。Glucose Watchが血糖値を自動測定し、その結果に応じて自動的にインスリンが注入される日もそれほど遠くではないでしょう。さらに、これが進歩すると、腕を「マジックボックス」に挿入すると検査結果を「ロボット」が判断して診断が確定され、投薬まで瞬時に終了するよな時代の到来を暗示します。無人医療施設は、患者には心地よく、満足感を与えると思われます。

  4)勝者は一人:最後に、これからの診断関連商品などの新規開発について考えてみました。トランジスタやCT・MRIのように発明発見者(社)は外国(人)であっても、それを大量に作る技術に日本(人)は長けていました。創造力がないと言われても集団力でなんとか栄えてきました。しかし、遺伝子解析装置やプレステ2のように発想や手段が権利化される時代では、第一開発者(社)が全てを制し第二発見者はタダの人となります。「追いつけ追い越せの発想」は過去のものと化したと考えるべきでしょう。トップのみの一人勝になるのは間違いないようです。

日本国内に於ける腕時計型検査器具の開発や遺伝子の解読などの分野は、米国などから少し遅れをとっているように聞きます。先発企業の一人勝ちにならないようガンバル必要を感じます。

ロボットのペットと独り静かに遊ぶ時代ですから、検査や医療も機械化または無人化が進かも知れません。「マジックボックスとロボット」が全ての医療を担う時代は来るのでしょうか。医師法には「無診察治療の禁止」という条項があり、「医師は、自ら診察しないで治療をし、処方箋を交付してはならない」と規定されています。この条項の意味は別にして、この禁止条項がある限り、「マジックボックスとロボット」が全てを代行することは有り得ません。しかし、インターネット等の通信手段が発達し画像の遠隔操作が一般化するであろう将来は、この禁止条項の存在は大きな問題を提起すると思われます。

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