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249. 新しいウイルスによる脳炎. 7-5-2001.

はじめに

1998年から1999年にかけて世界を「アッ」と驚かせたウイルスによる2種類の脳炎があります。その一つがマレーシアとシンガポールを襲ったニパウイルスによる脳炎であり、もう一つはニューヨーク市に突如として現われたウエストナイルウイルスによる脳炎です。

新しいウイルスによる感染症が人集団に新規に参入して来たり、いままでに存在しなかった地域に突如として現われたりすることが、近ごろ多くなって来たように感じます。ウイルスによる病気は、特効薬がないため原則として治せませんから、私達はある意味で恐ろしいと恐怖感を持ちます。一般の人達にも恐ろしいとの恐怖心をもって貰えるもと、さらに歓迎すべきことと思います。それは感染症に対する人々の考えが広くなり深くなることと多いに関係があると考えられるからです。マッチポンプ的に驚かす積もりは毛頭ありませんが、新しいウイルスによる脳炎のことを知って貰うことも重要なここと思い、「ニパウイルスとウエストナイルウイルス」について簡単な解説を試みます。

ニパウイルスについて興味ある方は、曖昧模糊の「139.マレーシアの新しい脳炎」に掲載してある文も読んでみてください。

ニパウイルス

ニパウイルスの名前は、このウイルスが最初に分離された地名に由来します。マレーシアは、日本国内では希な病気になってしまった日本脳炎の常在地ですが、1998年にはやり出した脳炎は、最初のうちは日本脳炎が疑われたようですが、実際は幾つかの点から日本脳炎と異なることが判りました。日本脳炎とは次ぎのような点で異なります。

  1. 新型の脳炎は、働き盛りの青壮年に集中して患者がでている。
  2. 豚に直接触れていない人から患者はみられない。
  3. 蚊による媒介が考えられない。日本脳炎は、コガタアカイエ蚊に刺されて感染が拡大する。蚊は人を選ばないで刺します。
  4. 養豚業者や屠殺場従業員に患者が集中していた。イスラム教徒のマレー系人種は豚を扱わない。
  5. 患者の大部分は中国系人種であり、少数インド系人種が含まれた。
  6. 日本脳炎のワクチンが効かない。
  7. 分離されたウイルスは、新型のパラミキソウイルスに分類されるニパウイルスによることが判りました。
  8. 患者は、養豚業が盛んな幾つかの州と輸入豚を屠殺していたシンガポールの屠殺場に多く発生した。

豚に感染して呼吸器症を起こすが、豚には高い致命率を示さない。流行地では豚、犬、猫、ニワトリにも感染すると言われていますが、人での流行も含め詳細は今後の研究に待たねばなりません。

ニパウイルスは、人から人への直接の伝播は報告されていません。また流行地の養豚場の閉鎖と飼育豚百万頭以上を屠殺処分したらマレーシアでの流行は収まりました。一方、シンガポールでも屠場を閉鎖したら新しい患者は出なくなりました。豚との接点を絶ちましたら結果的にこの脳炎は終息したようです。

感染している豚の血液や唾液から感染するようですが、患者の治療や看護をした医療従事者や単に豚肉を食べた人から患者は出ていません。ウイルスの侵入をうけると1ヶ月以内の潜伏期の後発症するようです。3〜14日間つづく発熱、頭痛、嘔吐に続いて意識障害によりこん睡に入り遂には死亡する。

ニパウイルスが属する「パラミキソウイルス」には、例えば、人の麻疹イルス、犬のジステンパーウイルス、ニワトリのニューカッスル病ウイルス等が分類されています。これらのウイルスとある程度は似ていますが、ニパウイルスは新型のウイルスとして承認されました。パラミキソウイルスは、脂質を含むエンベロープと専門的には呼ばれる外皮をかぶっています。物理化学的な因子に対して比較的抵抗性の低いウイルス群です。このニパウイルスがどこから来たのか、どうして突然と現われたのかを含め判らないとだらけです。

ウエストナイルウイルス

1999年にニューヨーク市で西半球では非常に珍しい蚊が媒介するウエストナイルウイルスによる脳炎の流行があり、高齢者に死亡者が出て世間を騒がせました。渡り鳥によるウイルスの伝播が注目されています。

アフリカ・ウガンダの不明熱患者から最初に分離され、分離された地域名からウエストナイルウイルスと呼ばれ、日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルスに分類されています。アフリカの流行地では、感染しても症状の出ない不顕性感染が多いようですが、しかし、毎年数百人から数千人の規模の流行があるようです。これまでにアフリカ、中東、ヨーロッパでは流行がみられ、インドやエジプトでも小流行があったようです。しかし、アメリカ大陸での感染は、今回初めて確認されたのです。どうしてアメリカに飛び火できたのでしょう。

ウエストナイルウイルスは、種々の蚊から感染し、伝播されます。自然界では蚊、鳥(渡り鳥やカラスなど)とヒトが宿主となります。しかし、ヒトからヒトへ直接感染することはなく、蚊が媒介します。

ニューヨーク市へのウイルスの侵入は、航空機などによるウイルスを持っている有毒蚊の移入、ウイルス感染者の移動、バイオテロなどが考えられているようです。ニューヨーク州では死亡したカラス等が感染していることが証明されています。可能性として渡り鳥がウイルスを持ち込んだとの考えが支持されているようですが、それではどうして今まで渡り鳥はウイルスを運び込まなかったのでしょう。大型台風が本来は渡来しない渡り鳥や蚊を運んできたのかも知れません。いまも謎です。

ウイルスが体内に侵入して5〜15日程度の潜伏期の後、発症率は低いが、発症すると発熱、頭痛、筋肉痛、発疹、結膜炎、リンパ節腫脹などインフルエンザ様の症状を示すが、ひどくなると肝炎、すい炎、脳炎が起こり、死亡することもあるようです。ウイルスを保有する蚊がウイルスを媒介するのですから、蚊を撲滅すればこの脳炎はヒト集団から消滅します。ところが地域によっては蚊を撲滅することは言葉で言うほど簡単なことではないようです。小さな水溜りでもボウフラは発生するのです。米国に有毒蚊が定着したら大変なことになるのかも知れません。

ここに取り上げた二つの脳炎を起こすウイルスが日本国内にも持ちこまれないとも限りません。その時、日本国内はどうなることでしょう。和歌山でのカレー事件、O157による集団食中毒事件や雪印乳業の食中毒事件などの報道からも一部の人達は気がついたと思いますが、国内の感染症にたいする意識の低さと感染症に対する専門家の数の少なさは、今後の対応を考えるにはすこし寂しい気がします。「転ばぬ先の杖」で全てが後手後手にならない事を期待しています。

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