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269.フランスの料理とプリオン.12-9-2001.

フランスで食べた珍味

国外旅行の目的は、人により様々でしょうが、近ごろは美味しい食事を探し出す少し贅沢なグルメを楽しむ為に国外に出かける人が多くなっていると聞きました。見た目や臭いがどうであってもなんでも好き嫌いなしに食事を楽しめる人、アルコール濃度が如何に高くてもどんなお酒でも飲めるアルコールに強い人等には、グルメ旅行は格好の目的となりましょう。

私個人は、微生物を扱う者としては神経質でない人間と信じています。食べ物に関して好き嫌いはあまりない方と思っていますが、それてもなんでも食べらわけでもありません、またアルコールは弱い部類に入ります。東南アジア諸国に出かけた時、食事や飲み物にはそれなりに注意していますので、これまでに旅行者下痢症に罹ったことはありません。これは私の自慢の一つです。しかし、グルメを求めての旅行は、私には向かないと思います。なんで作られているか判らないもの、外観が奇異なもの、香りや臭いが強いもの、色の悪いものは、食べないでご馳走様にするからです。そのため、例えば「クサヤ」はこれまで口にしたことがありません。

グルメ嗜好でない私がこれまでに経験した、パリで食べた主にフランスの料理について書こうと思います。これを取り上げるには、理由がありますが、その訳は最後に記します。フランスには何回も出かけていますが、パストゥール研究所に客員研究員として半年間ほどパリに滞在していた時は、週末だけでも数10日はありましたから、色々なところに出かけました。少し前の話になります。

最初は、フランス語が出来ないインド人(私もフランス語はこれまでに勉強したことがありません)と電車を利用してベルサイユ宮殿に行った時の話です。昼食をとるだんになって、レストランでなくカフェテリアに行こうとインド人が言うので、カフェテリアを探して入りました。この料理は「牛肉か豚肉か」と係りの者に英語で質問してもよいのですが、答えのフランス語が我々には理解できないので、彼は私に全ての料理について「牛か豚か」と私に聞くのでした。出最初のうちは丁寧に「これは多分豚肉と思うよ、こっちは牛肉かもしれないね」と答えてあげていましたが、あまりにシツコイので嫌気がさしてきました。宗教から牛肉が食べられないのは理解できますが、自分で牛肉と判らないのであれば食べても良いのではないかと聞き返しました。牛肉もだめ、牛の一部を使っていてもだめだと言うので、それでは何も食うなと言ってしまいました。あとで悪いことを言ってしまったと少し悔やみました。しかし、最後の文を読んでもらえれば、インド人が牛肉を食べないのはある意味で正解でると感じています。

フランス語ができない私には、ステーキを例外として希望の料理を注文することは容易なことではありません。日本語で言えば「京風Xのゴマの和え物、懐石料理、広島風お好み焼き」のようなことをフランス語で説明されたとしても、どのように料理してあるのかさっぱり判らないからです。それで、メイン料理は「牛か豚か」などの肉の種類と「煮たか焼いたか」と調理の仕方だけをなんとか確認し、あとはでてきてからのお楽しみと決め込んでいました。

スペイン人に連れられてスペイン田舎料理のレストランに行きました。「子羊の焼いた美味い料理」を注文しました。スペインでは良く食べる田舎料理だそうですが、でてきたものをみて驚きました。ニンニクの利いた出しによく漬けたてあるのですが、コンガリと焼いた羊の頭の半分が大皿に載せられてきました。スペイン人は、脳みそ、マブタ、目玉などをシャブルようにキレイに食べてしまいました。

一人でレストランに行ったとき、「牛肉と煮たもの」というだけで注文した料理は、日本風に表現すると、肉とネギ、人参、カブ、セロリなどの野菜の「オデン風ゴッタ煮」でした。ところが肉をキレイに取り除いた直径が6〜8センチもある太い骨が鍋に入っていました。骨がどうして入っているのか、骨をどうするのかが咄嗟には判らないので、同じ料理をとっている客がいないか周りを見まわすと大勢いました。骨の真中の穴に入っているをスプーンで食べていました。髄はゼリー状で美味かった記憶があります。肉や野菜はカラシをつけて食べるのです。このゴッタ煮は、フランス語で「火の鍋」という意味でポトフーと呼び、このポトフーは肉のない骨から忘れる事のできない料理となりました。

牛で美味いよと薦めるのでとってみましたら、ホアグラのソテーのようなかんじの「子牛の脳みそ焼き」、また「血液と脂の腸詰」がでてきたこともありました。その他には、牛の舌、胃や腸、腎臓等の料理を食べた事がありました。

フランスの料理とプリオン

これらの料理がテーブルに持ってこられると、自分で注文した料理であっても、まず外観から驚き、なんだこれはと自問し、次にどうのようにしてどこの部分を食べるのかを考えさせられます。他所から私の驚いている顔の表情を見ていると、笑ってしまう事でしょう。いい加減に頼んだ結果としてのスリルもパリでは味わうことができました。運も実力のうちです。

帰国後に知り得たことですが、羊の脳や眼球を好んで食べる習慣のあるユダヤ系リビア人には、クロイツフェルト・ヤコブ病の発症率が世界の平均値より数拾倍も高いそうです。羊の脳みそとヤコブ病との因果関係は、ハッキリしていませんが大変に恐ろしい食習慣で、スペインでも田舎ではよく食べるのだそうです。

パリで偶然に食べた料理の材料;子羊の脳みそと目玉、牛の骨のなかにあった髄、子牛の脳みそ、牛の血液と脂の腸詰、牛の胃や腸等は、考えてみると狂牛病を起こすプリオンを多く含む臓器です。いま仮にフランスに行ったとしても、もうこれらの羊や牛の料理は暫らくの年月は食べられないと思います。10年後位にはまた珍味を楽しめるかも知れません。

国内で二頭目の狂牛病が見つかった時に「267.狂牛病、国内二頭目」の原稿を書きました。ヨーッパ諸国でこれまでに見つかった狂牛病の発生数は、一位がイギリスで18万頭、二位ポルトガルと三位スイスに次いで四位がフランスで1991年からの10年間で443頭という数値を書いた時、パリで食べた料理のことを急に思い出しました。フランス語が解らないことから、これらの珍味に出会う可能性が与えられ、幸いでした。少なくともいま現在も健康です。

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