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316. 公的研究助成金の適正使用. 2-16-2003.

先日「東京大学医学部のある教授が国から受け取っていた研究助成金の使用が不適切であることが判明した」との報道がマスコミに流れていました。支出が不適切であると報道されていた内容の概要は、1)その教授は過去数年間に政府系機関から幾つかの研究課題に対して数千万円の助成金を受けていた、2)そのうち人件費として支出されたお金が実際には研究に携わっていない大学院生の口座に振り込まれていた、3)その通帳は研究室で管理していた、4)プールされたお金は大学院生などの学会出張費など目的外に使われていた、というものでした。

 

たぶん内部告発から事件が明るみにされたのでしょう、その結果大学当局も調査に乗り出したようです。結論として公的助成金の不適切な使用であり、きわめて遺憾であるとの報道担当者の発言も放映されていました。

 

不適切な使用が明るみにでた教授とは面識もなく全くの赤の他人でありますから、彼の肩を持つつもりは毛頭ありません。不正であることは事実でしょうから、悪いことは悪いのです。しかし、今回の事件を契機にどうしてそのような不正が行われるのについて、私なりに常日頃不思議に感じていることを個人的な意見として記します。その理由は、本当に公的な研究助成金の適切な支出は可能なのかということです。論議を醸しだすことをある程度覚悟しています。

 

平成14年4月から平成15年3月までの1年間に実施する平成14年度の研究に対する申請を例として以下に説明します。文部科学省、厚生労働省などからの科学研究補助金などに対する申請書(一部人件費も認められています)は、平成13年のかなり早い時期に提出します。平成14年度の国家予算が成立した後、申請計画の受理の可否と助成金額が決まり、平成14年6月頃に受理された結果の連絡を受けます。申請金額が満額認められた場合については良くわかりませんが、通常は申請額の何割かが減額された助成金額の内示があります。提示された金額に合わせて研究計画を再検討し、それに見合った金額を記入して申請書を再提出します。その何ヵ月後かに(この時期が問題なのです)大学の経理担当部署の口座にお金が振り込まれてきます。

 

助成金を使用するには、金額、使用目的や支払先などを明記した何枚かの書類を事務担当部署に提出し、業者などの指定した支払先の口座にその金額が送金されます。平成15年3月末までに過不足無く予算を執行します。助成金を受けた研究者は、お金には全く触りもしません。ここまでは、何の不思議さも不便さもありません。

 

研究助成が対象になる研究は、国が定めた重点領域の研究、計画研究、基盤研究、萌芽的研究および斑研究や個人研究などがあり、更に単年度の研究と数年間継続される研究、助成金が数十万円から数億円になる研究など、実にさまざまです。そのため、私がこれまでに経験した範囲に限定して、助成金の受け取りについて記します。

 

平成14年度の研究に対する斑研究の助成金が、本日(平成15216日)現在になってもまだ受け取ってないのも現実に存在します。予定した研究は、昨年の4月から実施していますからほぼ終了で、2月中には報告書を提出することになっています。私の個人の場合は、金額もそれほど大きくはありませんし、全て消耗品費で機器費や人件費などは入っていません。購入した物品への支払は、送金されてくるまで納入業者に待ってもらっています。

 

ところが助成金が数千万円から億を超える大型プロジェクトになりますと、任期を定めた若手研究者を研究費で数名採用していることも珍しくありません。研究が認められた初年度は、特に助成金が振り込まれてくるまでの数ヶ月の期間、採用した研究協力者の人件費はどうにもならなくなる可能性があります。そのためごく一部の研究者は、配下の研究協力者に毎月支払う人件費がありませんから、銀行から借金をしてまで支払うこともあるようです。名前を借りてお金を受け取ってもらったことにして、その分は今年度の研究協力者には支払わないで、来年度の人件費に使うこともあり得るのではないかと私は思います。また銀行から借金した金額は返済できても利息はどうするのでしょう。申請してある研究目的および支出に合致しないお金は支出出来ない事になっています。

 

助成団体からの送金があまりにも遅いために、適正な使用が難しくなっている可能性が考えられるのです。先般マスコミに取り上げられていた東大教授は、ここに書いたような苦しい事情にあったのではとの印象を受けました。不適切な使用であることには間違いないのですが。

 

私は不適切な公金使用を擁護するつもりはありません、適切に使用したくてもできにくい事情もあることを一般の人達にも知っていただき、助成団体はできるだけ早い時期に予算を執行してもらいたいのです。国家予算が決まらないと、官庁や公務員は公式にはなにもできないことは理解できます。毎年々々半年以上も送金が遅れる理由が知りたいのです。どうして同じことが繰り返されるのでしょう。幾つかの重要な原因があって送金が遅れるのであれば、何らかの解決策は見つけられるのではないでしょうか。

 

大学院生達も一円も貰ってもいないのに銀行口座と印鑑を作らされることに対して、不思議に思うに違いないのです。また逆に働いてもいないのにお金をもらえることの不思議さも感じているはずです。このような陳腐な現象は、教育の場にあってはならないと思います。それには助成団体の仕組みから改革しないと根本的な問題解決にはいたらないと思われ、公的機関に適正な公金の取り扱いをまず改善してもらう必要がありそうです。そうしない限り公的研究補助金の適正な使用は極めて難しいと思います。公的研究補助金とかかわりのない人たちのご意見をできれば聞かせて頂きたいと願っています。

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