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343. 脳性まひとボツリヌス毒素.1-2-2004.
 
ボツリヌス療法
破傷風菌やボツリヌス菌は、タンパク質性の強力な毒素を産生し、菌体の外に分泌します(世界最強の微生物を参照)。これらの菌は、なにを目的に人をも簡単に殺せる毒素を作り、なんのために毒素を菌体外に放出するのでしょう。人間を殺すことが目的ではないでしょうが、その毒素1グラムは、約1千万人もの人間を殺せる凄さです。破傷風菌の毒素は、神経に作用して筋肉を硬直させる。ボツリヌス菌の毒素は、同じように神経に作用するが筋肉を弛緩させます。 
 
いかに優秀な薬も使い方によっては毒になりますが、細菌が作りだす毒が逆に薬になることもあるのです。神経に作用するボツリヌス菌の産生する毒素を治療に用いることを「ボツリヌス療法」と呼ぶこともあります。自然界にある最強の「神経毒」で、生物兵器としても使われたこともあります。
 
「ボツリヌス療法」は、この筋肉を弛緩させる作用を逆手にとるものです。現在「ボツリヌス療法」で医療保険の適用が認められているのは、1)眼瞼けいれん(まぶたが痙攣する)、2)片側顔面けいれん(顔面の片側の筋肉がけいれんする)、と3)痙性斜頸 (首や背中の筋肉が異常に収縮して頭が傾いたり横を向いたりする)の三つです。ボツリヌス毒素の脳性まひ患者への効果について紹介します。
 
脳性まひ患者の症状緩和
脳性まひは、子宮内の胎児期から子宮外の出生直後までの間にかけて、低酸素などにより脳の運動中枢が傷害を受けて発生するといわれています。筋肉がツッパル型と意思とは無関係に筋肉が激しく動く不随意運動型が代表的であるようです。首の不随意運動が頻繁に起こると、首の骨の変形やずれて神経を圧迫し、手足の痛みやしびれ、腕があがらない、歩けないといった二次的障害があらわれるので当該者にとっては大変なのです。
 
ボツリヌス療法は、動きや緊張が激しい首や肩の筋肉にボツリヌス菌の毒素を注射することで筋肉を弛緩させ、不随意運動を軽減させる目的で用いられます。ある脳性まひ患者の場合(痙性斜頸に該当)は、両肩から腕までのしびれと痛みに襲われ、鎮痛薬や抗けいれん薬では症状が取りきれず、歩くのにも一苦労でした。勤務についても肩から腕までのしびれと痛みで充分に仕事ができない日々に悩まされていました。そこでボツリヌス療法を受けましたら、症状が軽くなり生活が楽になったそうです。家族のためにも働けるようになりました。
 
ボツリヌス菌の毒素は、脳性マヒの激しい筋肉痛で日常の社会活動もままならない状態から解放してくれるようです。1回の注射でしばらくの期間は楽になるようですが、そのうち効きかたが悪くなることもあるようです。注射する毒素の量と注射する間隔など検討すべき事柄が残っているようですが、国内でも今後ますます盛んになるものと期待されます。

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