◆腸管出血性大腸菌
  [Enterohemorrhagic Esherichia coli]

 大腸菌は動物の腸内に生息する代表的な細菌の1種類で、通状は病気の原因とならない。しかし、時に激しい病原を引き起こす大腸菌が数十種類存在することが解って来た。それらの大腸菌は、その病原の特徴から毒素原性大腸菌、細胞侵入性大腸菌、病原大腸菌、腸管出血性大腸菌と専門的には呼ばれる。大阪堺市で大流行した食中毒は、腸管出血性大腸菌の中のO157(O157:H7)と呼ばれる菌が原因であった。この菌は元来牛の腸内に常在し、牛の糞便から検出される。無毒な大腸菌との区別が難しいので、O157(O157:H7)の特定は容易でない。
O157:H7とは、ベロ毒素産生性腸管出血性大腸菌、最近では志賀毒素産生性腸管出血性大腸菌と呼ばれる細菌である。ヒトの糞便のほぼ3分の2が細菌で1グラムに約1012個(1兆個/グラム)の細菌が含まれている。大部分(99.9%)の細菌は、酸素があると増殖できない偏性嫌気性菌で、残りの0.1%(109個:10億個/グラム)は酸素があっても無くても増殖できる通性嫌気性菌で、その多くを大腸菌が占めている。
 大腸菌は通性嫌気性のグラム陰性桿菌での腸内細菌科細菌の一つで赤痢菌やサルモネラ菌と近縁の細菌である。
大腸菌の分類は血清学的分類という、細菌を構成している種々の物質の成分や構造の違いで決めているが、O157:H7は菌体抗原(O抗原)と細菌の運動性の器官である鞭毛(べんもう)抗原(H抗原)が、O抗原に対する157番目の抗血清とH抗原に対する7番目の抗血清で凝集するという意味である。この細菌が一躍全国的に有名になったのは、1996年に大阪府堺市で汚染したカイワレ大根を使った学校給食で多数の患者が発生し、全国でも1万人以上の人が発症して12人が亡くった食中毒である。本菌は新たに指定伝染病(食中毒)として指定された腸管出血性大腸菌症(食中毒)の原因菌で、その特徴は赤痢菌と同一の外毒素(志賀毒素、又はベロ毒素)を産生し、ベロ毒素産生性腸管出血性大腸菌と呼ばれるが、外国では一般に志賀毒素産生性大腸菌と呼ばれる。少量(100個以下)の菌を食物と共に経口摂取すると、比較的潜伏期は長いが腸管内で増殖して志賀毒素を産生して出血性の下痢を起こす。時にはその毒素が血液に入って全身に回り、腎炎や脳炎などを引き起こし死亡する事もある。
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