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86. ピロリ菌は胃ガンを起こす?.  3-23-98.

その1.ピロリ菌とはどんな菌?

 ヘリコバクター・ビロリ菌が住み着いていると医者からに言われました、どういう細菌なのですかとの質問がありました。質問に答える形でピロリ菌の説明をします。 俗にピロリ菌と呼ばれる細菌の正式な名称は、1989年にヘリコバクター・ピロリHelicobacter pyloriとなりました。それ以前はカンピロバクター・ピロリ Campylobacter pyloriという名前であった、比較的新しい細菌です。

 この細菌が新しい病原菌としてサッソウと登場してきたのは、1983年のことで、オーストラリアでヒトの胃の粘膜から分離されたことからです。胃では常に塩酸が分泌されていますから、胃のなかにたまっている胃液のpHは大変に低いので、細菌などが胃内に住んでいるとは誰もが考えたこともありませんでした。その常識をひっくり返す発見でした。

 本菌は、大きさは0.5〜5×0.2〜0.8マイクロメーターで、グラム染色をすると染色されないグラム陰性で、特徴的なラセン状の形をしていて、運動器官として4-5本の鞭毛を持ち、尿素を分解する酵素ウレアーゼを産生します。ピロリ菌は、酸素が十分に存在する好気状態や酸素が存在しない嫌気状態では発育せず、酸素分圧が3-15%と少し低い微好気状態で発育します。

その2.ピロリ菌の病原性

 ピロリ菌は、胃内という低pHの環境に常にサラサレており、酸に抵抗性があります。胃内で生息できる理由は、尿素を分解して菌体の周りに大量なアンモニアを発生し、そのアンモニアで菌体周囲の塩酸を中和しているからと考えられています。胃内はピロリ菌の生存に適した環境のようです。

 一般に先進国では感染率が低く、開発途上国では高い傾向があり、上下水道の普及と相関がありそうです。またこの細菌は、胃腸障害の患者さんの便からも分離されますので、口から感染すると考えられています。20歳以下では10%以下、50歳以上では80%近くが感染しているようです。

 ピロリ菌は、胃に到達すると粘膜のヒダに住み着き、胃炎、胃潰瘍(カイヨウ)、十二指腸潰瘍や胃ガン等を引き起こすと考えられています。十二指腸潰瘍患者の95%、胃潰瘍患者の80%、胃ガン患者の90%以上にピロリ菌の存在が証明されています。

 胃酸の出を抑制する薬や抗生物質を用いて、この菌を胃粘膜から除去すると潰瘍が治るようです。世界保健機構WHOは、このピロリ菌を発ガン物質と認定しています。

その3.胃炎との関係は80年前に報告

 この菌は、湾曲したラセン状の形態が一つの特徴とされていいます。梅毒を起す微生物は、ラセン状の菌で分類学的にはスピロヘーターと呼ばれる微生物です。

 ピロリ菌が胃炎の原因であることを報告した最初の細菌学者は、小林六造という日本人でした。小林六造は、最初の報告の中でこの菌の形態的な特徴からスピロヘーターの1種と考えていました。

 ところが、英国の細菌学者がピロリ菌と胃炎の関係を最初に見つけたのは北里研究所のドクター・コバヤシであると、つい最近発表しました。このような外国からの発表があってから、我々北里の関係者も初めて大先輩の業績に驚きました。

 小林六造という日本を代表する大細菌学者は、内務省の伝染病研究所で北里柴三郎所長のもとで研究に従事していました。内閣総理大臣は、この内務省の研究所を所長であっる北里柴三郎に一言の連絡もないままに突然文部省に移管する失態を演じたことがありました。この事件を契機に所長の北里柴三郎先生を始め副所長の北島太一、部長の志賀潔、小林六造を含む研究者、医師、看護婦など全ての職員が国立の伝染病研究所を1914年に辞職してしまいました。小林六造は、北里先生に従い、北里先生個人が私財を投入して新たに設立した北里研究所に移り、新しい北里研究所で現在いうピロリ菌にかんする研究を行っていたようです。その研究結果が1919年に英文の寄生虫学雑誌に掲載されてありました。いまから80年も以前にネコを用いての研究ですが、観察結果と報告内容から小林が観察したスピロヘーターは、現在の知識からするとスピロヘーターではなくヘリコバクターであると英国の研究者達は認めたのです。ピロリ菌が初めて分離されたのは、最初にも書きましたが、「1983年にオーストラリア人による」とされていますが。

 明治時代の日本人は、独創的な優れた仕事をした人が実に多いことに本当におどろかされます。現代日本人には独創性がないと良く耳にします。独創性がないのでは無く、若者の独創性を育む環境と指導者に問題があるのでしょう。先輩に負けないように努力する必要がありそうです。

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