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108. 飲み水がウイルスで汚染していたら? 9-3-98.

その1.生カキのウイルス汚染への質問.

 「生カキのウイルスによる汚染は、生活廃水による海水の汚染が原因ということの意味が良く理解できない」という趣旨のメールを複数貰いました。そこで、私たちの生活環境中に存在するさまざまな水は、人とウイルスとのかかわりがどのような関係にあるのかを説明します。

 最初に私たちの周りに存在する水は、人を中心にとらえるとおおざっぱに次のような関係になります。

 

                 雨 水

                  ↓

糞便→→水洗便所→→下水処理場→→河 川→→海 洋

    汲取便所   浄化槽    |    |

     ↓      ↓     ↓    ↓

雨水→→地下水    雑用水   飲料水  魚介類

     ↓      ↓     ↓    ↓

    飲料水   水洗便所  生活排水  人 間

 

            図.水の循環

 

 私たちは、直接か間接的かの違いはありますが、地下水または河川水を飲料水として利用しています。風呂や水洗便所などの生活環境からの水は、適当に処理されて地下や河川に入ります。河川水は、一部飲料水として利用され、その使用された水は再度河川に入ります。この水道水として取水と処理後の放流が地域によっては何回か繰り返されます。最終的には海に到達します。

 アデノウイルス、小型球形ウイルス、A型肝炎ウイルスやその他の腸内ウイルスに感染したヒトが、ある河川の上流地域にいたとします。そのヒトの糞便とともに多量のウイルス(糞便1グラムに約10万ウイルス、1日の排泄量は約200グラム)が長期間(1ヶ月以上)排泄されます。下水処理場などで水は処理されても、便所からのウイルスはほとんどそのまま河川に放流され、海にたどり着きます。海に出るまでのそれぞれの場所で、程度の差はあってもヒトと接触する機会がありますから、そこでまたウイルスはヒトに感染し、増殖することもあります。

 病気を起こすウイルスの一部は、水と共に上に述べた経路を経て、ヒトから出発してまたヒトに戻ってくる可能性があります。日本では、ウイルス感染症の感染経路別の統計がとられていませんので、ウイルスにどこで感染したのかは残念ながら判りません。しかし、米国では、古くからこの種の集計結果が公表されています。水から感染したことが判明している事例は、おおざっぱにみて全事例の約1割にあたるようです。

 

その2.上下水道水中のウイルスの実態.

 糞便に排泄されるウイルスは、すべてヒトの腸管で増殖するウイルスです。ウイルスが飲食物と共に胃に入ると胃酸と呼ばれる強い酸性にサラサレ、腸にいくとアルカリ性で界面活性剤にもバクロされます。それでも、殺されないどころか、増えるほど抵抗性が強いウイルスです。

 これらのウイルスの病原性は、多種多彩ですが、まれに無菌性髄膜炎、肺炎、麻痺などの重篤な症状を示す場合もあります。

 環境水にどの程度のウイルスが検出されるかを、いくつかの報告から抜粋して表にまとめて示します。

 

表1.環境水中のウイルス

試 料 水       検査数   陽性数  陽性率%

生下水(流入下水)  838   675  80.6

沈殿汚泥      1417  1157  81.7

塩素処理前排水    438    85  19.4

塩素処理後排水    489    50  10.2

河川水         47    32  66 

雑用水        137    31  23

処理下水        69    33  48 

 

表2.飲料水のウイルス

検査国   検査数  陽性率

カナダ     7   71

イギリス  229   34

イスラエル  20   16

オランダ    8    0

アメリカ   54    0

ルーマニア   8   50

日本    報告なし

 

 環境水には、100種類を超えるヒトの腸管系ウイルスが検出されます。上の表に記載された結果は、ウイルスが1種類でも複数種でも検出されたら、陽性という表現になっています。ウイルスの検出結果は、次のように解釈します。ウイルスが陽性を示した場合、検出されたウイルス以外にも、増殖させられない、または検出が難しいウイルスが混入している可能性がある。実際は検出されたウイルスの百倍から千倍量のウイルスが混入している可能性が考えられる。ウイルスが検出されなかつた場合、絶対にウイルスが混入していない保障にはならない。

 それでは、どの程度のウイルス量が混在していると、感染の危険があるのでしょうか。これは非常に難しい問題です。子供、青年、老齢者、糖尿病の人、カゼを引きやすい人、扁桃腺を取ってしまった人、免疫に問題がある人等は、ウイルスに対する感受性が個々で違うかもしれないからです。また混在するウイルス量と飲み水の1回に呑む量によっても、かんせんする危険性は違うでしょう。しかし、世界保健機構WHOでは、「飲料水にウイルスは含まれてはならない」と勧告を出しています。これを受けてアメリカ、フランスとニュージーランドは、飲料水の基準としてウイルスゼロを規程しています。

 過去に、ボランティアに飲ませて最小感染ウイルス量を測定したケースも外国ではあります。50パーセントのヒトが感染するウイルス量は、意外に少なく、環境水から検出されるウイルスでも感染しないとは断言できません。しかし、細菌の日本では生水はあまり飲まなくなりましたので、生水を飲んで感染する可能性は自然と低くなったと思います。

 しかし、親水公園、24時間風呂、河川、中水道等の水を飲み込まないように注意した方が良いかと思います。24時間風呂の循環水からウイルスが検出されたとの報告は聞いたことがありませんが、40℃程度の温度では腸管系ウイルスは死なないからです。

 

その3.水行政に望まれること.

 生カキが腸管系ウイルスに汚染されるのは、カキを養殖している海域に流入してくる河川水がウイルスを含んでいるからと考えられます。水洗便所の使用を止めるか、または糞便を土地に直接戻してしまうことが出来るならば、河川水はウイルスで汚染されなくなりましょう。しかし、無理なことを望んでも解決しません。

 そこで、下水処理場からの排水、河川水や飲料水のウイルスに対する監視体制を作ることが必要だと思います。それには、色々な問題があると思います。水に対する責任または管理権は、水の種類によって建設省、厚生省、通産省、農水省、環境庁なとに分かれているようです。乱暴な言い方を許されるならば、すべての水の管理は、環境庁1本にまとめてしまえば良いと思います。環境庁にウイルスの専門家を監督官としておき、ウイルスの検査体制を早急に構築し、水質基準を定めることが問題解決への道かと思います。

 生カキがウイルスに汚染されているのは、基本的には行政サイドのウイルスに対する安全対策の遅れに問題がありますが、ウイルスを排出する私たちにも一部責任があるかとも思います。従って、生カキの養殖業社を怠慢だとか非衛生だからと一方的に責めることは出来ないと思います。これは、我々の日常生活にかかわる重要なことですから、このままで良いはずがありません。知恵をだしあってキレイな生カキを安心して食べられるようにしたいものです。

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