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122.母乳の恵み.12-19-98.

 @母乳と牛乳.

  百年ほど前にメチニコフという風変わりなロシア人の天才がいました。世界各地の大学や研究所でも活躍したのですが、特にパストゥール研究所で病気の研究をして免疫学でノーベル賞を受賞しました。このメチニコフについては、「北里柴三郎の秘話」のなかにある志賀潔著の「細菌学を創ったひとびと」に記載があります。

 メチニコフは、ある日「老衰を防ぐにはどうすれば良いのか、その老衰を起こす原因はなにか」との疑問をもち、そこで「老衰の原因は動脈硬化ではないか」と考えました。次にメチニコフは、「動脈が硬化するのは自家中毒による」との仮説をたてました。ブルガリアの人々が長寿なのは、牛乳から作るヨーグルトに秘密があるとメチニコフは考え、ヨーグルトこそ大腸内の細菌の繁殖を抑え、自家中毒を防ぐ原因であると信じ込みました。それからは、自分でも毎日大量にヨーグルトを飲料し、同時にヨーグルトの普及にもつとめました。

ヨーグルトが健康に良い理由は、最近までは良く解りませんでしたが、ヨーグルトを作るブルガリアのヨーグルト菌は大腸内で乳酸を作る細菌の一種でありました。乳酸は大腸内の細菌群を調整しているのです。

 赤ちゃんが産道を通ってこの世に生まれ出る直前に産道内に常在しているビヒィダス菌の洗礼を受けます。このビヒィダス菌は、乳酸を作る細菌の一種で産道内を清潔に保つ働きをしています。赤ちゃんに母乳を与えると大腸内でこのビヒィダス菌は良く増殖します。しかし、母乳の出が足りなくて牛乳である粉乳を与えたのでは、この乳酸を作る細菌はあまり殖えません。その結果、粉乳を与えられている赤ちゃんは、母乳で育てられている赤ちゃんより病気になりやすいのです。

 日本人が普通の食事をとっていたのでは、乳酸を作る細菌は大腸内であまり殖えません。ブドウ糖などの普通の炭水化物は、ビヒィダス菌も殖やしますが、糞便を臭くするバクテロイデスや大腸菌などの大腸内に圧倒的に多い菌の増殖にも大切な栄養素として働きます。

 大腸内で良い働きをする細菌を殖やすには、乳糖などのように数個の糖が結合した糖質でバクテロイデスや大腸菌などは利用できない炭水化物を食べると良いことがだんだんと解って来ました。  

 

 A母乳は乳児の感染を予防する.

 乳幼児の下痢は、多くの場合ロタウイルスというウイルスを飲食物とともに口から体内にとり入れ、このウイルスが腸管内で増殖して引き起こされます。ロタウイルスの増殖を抑えることがてきる特効薬はまだ見つかっていません。

 世界有数の医学雑誌であるランセットの最近号に、米国ボストンにあるマサチューセッツ総合病院のニューバーグらによる母乳の効能についての面白い研究報告が掲載されていました。概要は次のようです。

 乳児200例を対象に研究を行い、31例の便からロタウイルスを検出し、その31例のうち約半数の15例にのみ下痢がみられた。ロタウイルスに感染した乳児が症状を呈する直前に集めた母乳を詳細に検討し、その結果、ロタウイルスに感染した乳児のうち複合糖タンパク質ラクタドヘリンlactadherinの濃度が高い母乳を与えられていた乳児は症状を呈さず、症状がある感染乳児に与えられていた母乳のほうがラクタドヘリン濃度が低いことが判った。母乳サンプル中のラクタドヘリン濃度は、無症状乳児の場合母乳1ミリリットルに49.4マイクログラムであったが、有症状乳児では 29.2マイクログラムであった。ラクタドヘリンは母乳の複合糖質で、その作用はロタウイルスに結合して細胞への感染を妨げると考えているようです。

 今後の研究次第では、ラクタドヘリンの分子構造が判明すると、合成することも可能となり、乳幼児に多いロタウイルスによる感染の予防に使用できるかも知れません。この報告は、母乳中の物質がヒトの病原ウイルスを抑制することを示した最初の例であると思われます。今後の研究の飛躍的な発展を期待したいものです。

 若いお母さん!牛乳は牛の子を育てるものです、ヒトの子は母乳で育てましょう。

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