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205.集団食中毒事件の経済学. 7‐22‐2000.

1.集団食中毒事件の経済的インパクト.

 雪印乳業が製造した「低脂肪乳」による集団食中毒事件から、自分の置かれている立場の違いにもよりますが、多くの人達がいろいろな学習をしたと思われます。事件が明るみにされた初期の頃、雪印乳業の社長さんは「低脂肪乳はあまり儲かっていないので経済的な被害は大きくない」との発言をしたようです。最高責任者であるこの社長さんの考える「経済的な被害」とは、いったい何であったのでしょうか。

 新聞報道によると、「雪印」と明記してある商品は、雪印乳業とは別会社の製品であっても、店頭から撤去されているようですし、また中国でも雪印商品の輸入を制限するようです。今後の問題もいれて、雪印の経済的な被害は社長さんが当初頭に描いた被害より大きいのは確かだと思われますが、果たしてどの程度になるのでしょう。

2.食中毒の経済学.

 ボツリヌス菌による食中毒であった「カラシ蓮根」事件は、それほど大量に売られていませんでしたが、「カラシ蓮根」を食べた人から死者がでました。この不祥事により、製造販売をしていたその会社は、経営が成り立たなくなり倒産したようであります。食中毒をだすと当該企業の破産という被害をうけることもあり得るのです。

森永ヒ素事件は、百人を超える死者と一万人を超える被害者がでました。この森永ヒ素事件による森永乳業の受けた経済的な被害額は、正確に記録に残っているのでしょうが、どの程度の金額になったのでしょうか。私はこの事件のことは今も記憶していますが、「森永は大事故をかつて起こした企業であるとの人々の頭のなかにいまもあるイメージ」は、経済的に破産しませんでしたが、森永にとって金銭的には計り知れない損失であると思います。

原因がなんであれ食中毒を起こすと、被害者や遺族の苦痛や痛みは別にして、金銭的に計算できないほど莫大な被害を蒙るのは間違いないようです。

3.食中毒の医療費.

 飲食物の経口摂取により起こる集団食中毒の原因体として、ロタウイルス、小型球形ウイルス(SRSV)、A型肝炎ウイルスやE型肝炎ウイルスが考えられます。これらのウイルスによる集団食中毒を起こしてしまったと仮定して、感染者が医療施設に支払う費用はどの程度になるかを考えてみましょう。これらの数値を計算する資料は、厚生白書にも見当たらないと思いますので、「当たらずも遠からず」程度に考えてください。

 秋田大学の中込教授達の発表資料を引用して、推測してみます。ロタウイルスに汚染されている飲食物で千人の下痢患者を出してしまい、一週間程度の入院が必要であった、しかし、幸いにして死者はでなかったと仮定します。下痢患者1人当たりの医療費は、概算で10万円程度と考えられようですから、10万円×千人=一億円となります。生カキなどの小型球形ウイルス(SRSV)による場合は、ロタウイルスによる下痢症とほぼ似た数値になりましょう。

 A型肝炎ウイルスまたはE型肝炎ウイルスで汚染されている飲食物で千人の患者をだしてしまい、一週間程度の入院が必要であったと仮定します。A型肝炎ウイルスの感染では、大部分の患者は1週間程度で軽減しるようですが、1%程度の感染者は劇症肝炎になり、その30%程度の感染者が死亡する可能性があります。またE型肝炎ウイルスの場合は、妊婦の感染率と死亡率が特に高く、妊婦が感染すると最大で30%程度が死亡する可能性があります。軽症で済む場合と劇症に移行した場合で必要な医療費は、大きくことなります。それを乱暴ですが平均化して患者1人当たり100万円と仮定しますと、100万円×千人=十億円となります。

 千人の患者が一週間入院を要する食中毒を仮に起こしてしまうと、少なくとも一億円から十億円の医療費が必要となりそうです。当該企業が実際に負担しなければならない費用は、感染死亡者への弔慰金、感染者への補償金、商品の回収・処理費、製造販売ラインの総点検費用と一部改修改善費、操業停止期間の社員への手当て、その他等を計算すると、医療費として支払った金額の少なくとも十倍(十億から百億円)になるのではないでしょうか。この金額には、信用失墜による間接被害額は計算されていないのです。

 日本人はある種の節操がないように思われます。経費削減という御旗には誰しもが反対できない社内の雰囲気、一度事故をおこしても暫らくすると忘れてくれる消費者、辞任することで責任をとったとする社会風潮、臭いものには蓋をする思考傾向等は、直ちには解消されないのかもしれません。企業の繁栄を目的に利益を優先させるあまり、衛生に対する対応が疎かになると、当該企業は繁栄よりも存続すらできなくなりましょう。社長などの責任ある人達と一般従業員とでは、全てに対する責任の重さが違うのですから、責任ある者は自分の命に代えても社会と会社に対して責任を痛感すべきと思います。

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