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252. 空気清浄機は役に立つウイルスまで取り除きますか.7-19-2001.

有益なウイルス.

新しい空気清浄機の購入を考えています。性能説明書には「微細なホコリからウイルスまで取り除く」と書いてあります。「環境中には人の為になり環境の浄化に役立つウイルスも存在すると思いますが、空気清浄機は役立つウイルスをも取り除いてしまうのでしょうか」と、ある主婦の方からメールを受け取りました。

役に立つウイルスが存在するとは考えてみたこともありませでしたので、このメールを読んだときには、少し考え込んでしまいました。「考えたことも無い」という事は、如何に頭が固くなっているかを如実に示すことで、このような発想ができるよう頭の柔軟体操と考えて、返事のメールを送りました。

世の中には「人に対しては有害なウイルスか無害なウイルス」しか存在しないので、空気清浄機が役に立つウイルスまで取り除いてしまうことは考えなくても良いと思います。どうしてウイルスには「有害と無害」しか存在しないのか、有益なウイルスもいるのではないかとの質問が再び飛び込んできました。それからウイルスについての基本的な事柄を説明し、有益なウイルスは多分存在しないと思いますとの理由を書きました。皆さんのなかにも「有益なウイルスが存在しない理由」に興味をもたれるかと思い、ここに「ポケット・ウイルス学」の解説文を掲載します。

ポケット・ウイルス学.

ウイルスは、細菌などとも違って全ての生物体共通の基本構造である細胞という構造はもっていません。ウイルスは、遺伝子である核酸(DNARNA)を中心にして、その核酸の外側をタンパク質の保護膜が取り囲むそれだけの単純な構造です。

 

犬に病気を起こすジステンパーウイルスと人の麻疹のウイルスは、構造的には非常に似ています。しかし、ジステンパーウイルスは犬には病気を起こしますが、人に病気を起こすことはありません。またその逆に麻疹ウイルスは、人には罹りますが犬には罹りません。このような現象を「ウイルスの種特異性」と専門的には呼びます。

インフルエンザウイルスは、呼吸器に病気を起こしますが、肝臓に肝炎を起こすことはありません。風疹のウイルスが皮膚に病気を起こすこともありません。特定の臓器にのみ病気の原因となる現象を「ウイルスの臓器特異性」と呼びます。

ポリオと呼ばれる神経が侵される病気は、ポリオウイルスによって引き起こされます。自然界でポリオウイルスは、ヒトとサルに罹ります。それ以外の動物、例えば、ウサギやネズミには浴びせるほど濃厚に暴露してもなんの変化も現われません。サルとウサギの細胞を試験管のなかで増殖させた細胞にポリオウイルスをかけると、サルの細胞でウイルスは増殖し細胞を完全に破壊しますが、ウサギの細胞は平気です。次にサルとウサギの細胞にポリオウイルスから抽出したウイルスの遺伝子であるRNAを振りかけると、サルの細胞でもウサギの細胞でもポリオウイルスは増殖して殖えてきます。

ポリオウイルスのRNAは、サル細胞でもウサギ細胞でも感染し増殖することができる。しかし、ウイルス粒子と細胞とを接触させると、ポリオウイルスはウサギ細胞では増殖しない。ウサギ細胞でウイルス粒子は増殖しないがRNAは増殖してウイルス粒子を作る。

このような簡単な実験から次のようなことが結論されます。ウイルスが増殖するには、細胞のなかに遺伝子が入り込むことが必要で、ウイルス粒子はウサギの細胞のなかに入り込めない。入り込めないのは、タンパク質の膜が邪魔をするからと考えられます。それで、ポリオウイルスの粒子はサルの細胞に入り込めるかを調べました。ウイルス粒子は、細胞に強く吸着し、数分後には細胞のなかに入り込むことが証明されました。

ウイルスの種特異性と臓器特異性と呼ばれる現象は、ウイルス粒子が細胞と結合できるか出来ないかによることが判ったのです。ウイルスが増殖する細胞の表面には、ウイルスを吸着させる特殊なタンパク(レセプターと呼びます)が存在し、そのレセプターと相性のよいタンパク質の膜をかぶっているウイルスだけが細胞の表面に結合でき、結果としてウイルスの増殖が起こるのです。

エイズウイルスのレセプターはリンパ球にあり、インフルエンザウイルスのレセプターは呼吸器系の細胞が持っていることが判りました。ウイルスが増殖するに都合のよい細胞を感受性がある細胞と呼びます。レセプターが存在しないためにウイルスが増殖できない細胞は感受性がない細胞となります。

ウイルス粒子は、加熱したり消毒薬に暴露したりすると、殖えられなくなりますから、殺されたように思われます。しかし、その死んだと思われるるウイルスから遺伝子を取り出して細胞にマブシテやると、ウイルスが殖えてきます。マジックのような現象が科学的にとても面白いのです。

さて、最初の質問にありました「役に立つウイルス」は、環境中に存在することになりましょうか。感染が成立するとウイルスは殖えて細胞を破壊します。このようなウイルスと細胞の系では、ウイルスは細胞にとって有害な存在になります。レセプターがなくて感染しない細胞では、ウイルスは存在しても存在しなくても、ウイルスが細胞に結合できないのですから、結果としては全く何の反応も起こらないことになります。このような系では、ウイルスは全く無害な存在となります。

「本当に役に立つウイルスはこの世に絶対に存在しないか」と、繰り返し執拗に質問されたとすると、「役に立つウイルスは作れます」と答えるでしょう。次の機会にまでに纏めて紹介しましょう。少し時間を下さい。

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