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418. 歴史に学べ、人体実験に寄せて.1-6-2005.
 
「416. 米国産牛肉を食べますか.12-12-2005.」を読ませて頂きました。この中で「人体実験」と言う言葉があったので思い出した事があります。それは、合成女性ホルモン(ジエチルスチルベストロール:DES)の事です。幸いに以前調べものが家に残っていましたので、この顛末をお送りいたします。
合成女性ホルモンDESは、1938年にエドワード・ドッズとその同僚によって発明された医薬品です。当時の第一線の研究者や産婦人科医などから、「DESは無限の価値を持つ奇跡の薬」と賞賛されていたようです。流産や早産がエストロゲンの不足によるものと考えられていたという当時の科学的な背景もありました。
DESを妊婦に投与するという前代未聞の大規模な実験が始まり、被験者は米国や中南米などで500万人にものぼったそうです。結果はどうだったのかは解りませんが、このあとは「流産予防薬」や「快適な妊娠期を保障する薬」として処方されていました。更に、「妊婦必携の妙薬」から暴走して、「出産後の母乳量の抑制」、「更年期障害の軽減」、「にきび」、「前立腺がん」、「事後の口径避妊薬」などとして長い間処方されていたようです。
その上、ニワトリや雌ウシを太らせるなど、家畜を太らせる目的でも大量にDESが用いられました。一方で、ラットの子供に異常が生じたとの理由で危険性を訴える研究者もいましたが、当然の様に無視されました。
転機が訪れたのはシカゴ大学のウィリアム・ディークマンらの研究チームが、1952年の米国産婦人科学会の年次総会でDESを批判したことに始まりました。ディークマンらの研究チームは、2,000人の妊婦を被験者として、二重盲検法を用い、細心の注意を払って調査研究を行いました。この調査の結果、DESには何の薬理的な効果が無いどころか、むしろ早産や流産および新生児の死亡に拍車をかけていたことまでが判りました。この期に及んでも米国のFDAは、DESの投与を差し止めず、一部の産婦人科医を除いて、相変わらずDESの妊婦への処方が続きました。

1966〜1969年にかけて、15〜22歳までの若い女性が、明細胞腺がんという珍しい膣がんでマサチューセッツ総合病院を訪れました。当時、30歳以下の症例は世界でもわずかに4例しかありませんでした。こうした患者はハーバード大学にまわされました。そこへ、同じ膣の明細胞腺がんに苦しむ娘を連れた母親が受診しました。この母親は妊娠中にDESを服用していたのでした。産婦人科教授のハワード・ウルフェルダーは、同僚の産科医アーサー・ハーブストと疫学者デイヴィッド・パスカンザーの協力を得て、患者の病歴をつぶさに検討しました。全患者に共通する因子としてDESが洗い出されました。この結果は、1971年4月22日号の「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に発表されました。
この事から、因果関係を支持する医学者と御用学者との間で、膣の明細胞腺がんを誘発したのがDESであるかどうかのすさまじい論争が起こりました。その中にあってジョン・マクランの研究チームは、妊娠中の親マウスにDESを投与することで、生まれてきた子供マウスの膣に明細胞腺がんを誘発させることに成功しました。更に、オスへの障害をも調べました。オスの精巣の下降不全をはじめ、生殖器に障害がおこることを確認しました。1975年に「サイエンス」に研究成果を発表し、思春期以降にならないと表面化しないという恐ろしい結果を明らかにしました。
これらの地道な研究成果が活かされて1979年にFDAは、DESの家畜類への成長促進剤としての投与を全面的に禁止しました。それから10年も経たないうちにイギリスにBSEが発生して、米国へ飛び火して現在に至っています。壮大な人体実験をしたのに全く懲りていないとしか思えません。
 
少し前には、食品や輸入品の産地偽装や核物質の保管容器のデータ捏造、最近では耐震強度偽装が行われています。これからも同じことが懲りずに繰り返される可能性は大きいと思います。今回、米国産牛肉にたいして産地偽装が行われれば、牛肉全体の信用が落ち、まじめに管理し、安全な食材を提供しようとしている酪農家も被害を受けることになるでしょう。そうならない様に祈るしかありません。
参考文献:
著者:村田 徳治 
書籍名:化学はなぜ環境を汚染するのか
発行所:環境コミュニケーションズ
発行日:2001年10月1日
『完』
 
ここに掲載した論文は、ある企業の中央研究所に勤めておられた方から寄せられたものです。この文を曖昧模湖に掲載したのには、私なりに理由があり、更に合成女性ホルモンについて広く世の中の人に知ってもらいたいと思ったからです。
あまり耳にしなかった「環境ホルモン」という言葉が俄かに話題となり、マスコミをも賑わした時期がありました。私たちの極めて身近にある多くの化学物質が野生の魚介類や爬虫類の生殖器に異変を誘導しているというものでした。環境ホルモンとの関係が証明されているのか否かは判りませんが、成人男子の精子数が減っているとも報道されていました。
ちょうどその頃ある下水関係の学術集会で意外な発言を聞いたことを記憶しています。環境ホルモンと総括的に呼ばれている化学物質群とは無関係に、下水中には大量な女性ホルモンが混入していると言うのです。野生の魚介類への影響については、化学物質によるのかそれとも下水中の女性ホルモンによるのかを良く調べる必要があるとも述べていたような気がします。そのホルモンとは、女性の血液中に存在する正真正銘の天然女性ホルモンと避妊薬として使われている合成ホルモンとのことでした。人体由来のホルモンは、女性ホルモン様の化学物質「環境ホルモン」よりも量的に多いのだそうです。真偽のほどは判りませんが、「そのような可能性もあるのか」というのが、それを聞いたときの私の印象でした。
DESを大量に妊婦や動物に投与して当時は、いまほど下水道が完備してなかったでしょうから、河川を通って海洋にまで到達する可能性は少なかったものと推測されます。それにしても合成ホルモンやホルモンのような働きをする化学物質は、生体に対して何がしかの良い働きをもしているのかも知れませんが、ともに生殖器に働くとすると怖い話です。

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