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426. 腸内有用菌の意外な機能.11-10-2005.
 
免疫系と腸内有用菌
腸管内に生息し病原菌と一緒にいるが、生体に傷害を与えない共生菌(ここでは有用菌と呼ぶことにします)の働きは、食物を分解してヒトが吸収しやすいような形に変える、ビタミンなどを産生してヒトの健康に有益に働く、消化器系の発達を促進する、病原菌の定着を防ぐ因子の生産などが考えられています。
免疫系は、病原菌を認識して、強力に且つ破壊的な手段で病原菌を攻撃します。しかし、病原菌と共生している多くの有用菌に対して、免疫系は排除することなくその存在を容認することは自明の事実ですが、考えようによると不可思議な現象と映ります。
細胞表面に存在するToll様受容体(TLRと略称する)と呼ばれるタンパク質は、生体内に侵入してきた病原菌の表面構造の分子を認識して、自然免疫系により病原菌への攻撃を引き起こす生体に備わった殺し屋として知られています。なにかよく解らない不明な機序によりTLRは、有用菌または共生菌を認識しないようになっていて、通常は病原菌のみを認識し攻撃しています。
この矛盾というか不思議の謎解きをする研究が米国エール大学のR.Medzhitov教授らにより行われ、有用菌に知られざる働きがあることを明らかにしました(Cell 118:229-241,2004)。この報告の概要をここに紹介します。
 
腸管内有用菌の知られざる機能
有用菌の働きを知るために、TLRの重要な成分を欠損しているMyD88マウスとTLRタンパク自体を欠損している特殊なマウスおよび抗菌薬で腸管内の細菌を除菌させたマウスと正常なマウスを用いて実験は実施されました。
最初の実験は、腸管の上皮細胞に毒性を示すデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)をマウスに投与しました。対照として用いた正常なマウスは、DSS暴露による傷害から容易に回復しました。MyD88欠損マウスは、DSS暴露により重度の損傷を受けました。TLRタンパク質を欠損するマウスに対するDSSの影響は、MyD88欠損マウスと同様な結果でありました。TLR欠損マウスの腸上皮細胞の増殖と分化に広範囲な異常が認められ、TLRが腸組織全体の維持にかかわっていることが分かりました。
 
正常マウスの腸上皮細胞は、DSS損傷に反応して組織修復にかかわると思われる数々のタンパク質を生産することが観察されました。対照的にTLR応答を欠損するマウスでは、タンパク質の生産は認められませんでした。また抗菌薬で腸管内の細菌を除菌させたマウスのDSS損傷に対する感受性は、MyD88欠損マウスと同等となることが明らかになりました。さらに抗菌薬で除菌したマウスにTLRが認識する細菌細胞の表面構造の分子を投与した場合、DSS損傷から正常マウスと同じように完全に保護されることが示されました。
 
これらのことは、共生菌の有用性はその生物活性によるのではなく、TLRによる有用菌の認識にあることを証明しました。この認識は、「有用菌はTLRを活性化して腸管の上皮細胞の恒常性(ホメオスタシス)を促進させる遺伝子やその促進過程を制御し、腸管の上皮細胞(粘膜)を保護して組織の修復を誘導する」という全く予想外の新しい機能を有することを示したと述べています。
 
抗癌剤による治療を受けているがん患者は、免疫能も低下することから病原微生物の感染を受けやすくなります。細菌による感染症から患者の生命を守るために抗菌薬を投与することが一般化されています。今回の発見を拡大解釈すると、エイズ患者のように免疫能が低下している患者、抗癌剤や免疫抑制剤などの投与をうけている患者などでは、腸管内に生息する有用菌の役割をもっと考慮する必要がありそうです。またTLR活性を維持するなんらかの細菌細胞の表面構造の分子を用いる新しい治療法が開発されるかも知れません。有用菌の新しい時代の到来が近づいてきているようです。

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