246. 子供に多い下痢の原因ウイルス. 6-20-2001.食中毒の患者が訴える症状に「急性胃腸炎」があります。ヒトに急性胃腸炎を起こす、細菌については別な項目で触れることにし、ここではウイルスについて説明します。ヒトに急性胃腸炎を引き起こす主なウイルスとしては、ロタウイルス、アデノウイルス、サッポロウイルス、ノーウォークウイルスとアストロウイルスの5種類が知られています。 ロタウイルスは、乳幼児の下痢の原因ウイルスで、 発展途上国では百万人もの乳幼児か毎年死亡していると考えられています。先進発展諸国でも消化器の感染症は多いですが、死亡例はあまり報告されません。しかし、患児のための医療費は一千億円を超えるであろうと言われています。一方、ノーウォークウイルスは、成人での食中毒の大きな要因で、食を介した集団での感染が多いため公衆衛生上の問題として大変なウイルスとなっています。各ウイルスによる急性胃腸炎について簡単な説明をします。ロタウイルスによる胃腸炎 ロタウイルスは、全ての生き物のなかでも非常に珍しい遺伝子を持っています。ヒトを含む通常の生き物では、普通DNAは二本の鎖が絡まった二本鎖の構造で、一方RNAは一本鎖からできています。その上、ほとんどのウイルスの遺伝子は、二本鎖DNAであっても、一本鎖RNAであっても、一本からできています。ところが、ロタウイルスは、直径が約70ナノメートルの大きさで、二本鎖RNAの遺伝子をもち、更に不思議なのは11本ものRNAから遺伝子ができています。 ウイルスは、非常に安定で 感染力が強いので、院内感染なども起こします。潜伏期は48時間前後と短く、発症後1週間は糞便にウイルスが認められます。糞便が感染源となり、ロタウイルスを含む糞便で汚染されている飲食物を摂ることで感染が起こり糞口感染と呼ばれます。冬を中心に流行することが多いが夏場の感染もあります。ヒトに胃腸炎を起こすロタウイルスには、A群ロタウイルス、B群ロタウイルスとC群ロタウイイルスの3種類が知られています。そのなかでも A群ロタウイルスが一番多いようです。主に2才未満の乳幼児に多く見られます。発病初期には発熱と嘔吐をきたし、その後水の様にうすい水様性下痢が1週間ほど続き、脱水症状(中等から重症まで)を示します。発熱の頻度と脱水の程度が高いのがロタウイルスによる急性胃腸炎の特徴です。ウイルスは抗原性から多数存するので、小児期になんどでも感染することがあります。しかし、二回目以降は軽症に経過することが多いようです。ノーウォークウイルスによる胃腸炎 食品衛生法で指定されている 小型球形ウイルスSRSVと同じウイルスと考えられています。食中毒または胃腸炎の原因ウイルスとして最初に報告されたウイルスの一つですが、いまもって培養が出来ないウイルスでもあります。ウイルスの名前は、最初に報告された地名から付けられました。正 20面体の構造で直径が27〜35ナノメートルと小型で、一本鎖RNAを遺伝子とするウイルスです。生カキによる食中毒なとの主な原因ウイルスで、ウイルスに汚染されている食材を口から取り入れて起こる経口感染です。乳幼児から成人まで幅広い年齢層 に急性胃腸炎を起こします。かつては食中毒の原因ウイルスであると考えられていましたが、最近では小児期の胃腸炎の主な原因ウイルスと考えられるようになりました。検出頻度はロタウイルスに匹敵する可能性があります。腹痛と嘔吐ではじまることが多く、それに下痢を数日間続くことがありますが、発熱の頻度は低いようです。成人等では入院するほどの重症例は少ないようです。生カキによる食中毒は冬に多くみられますが、急性胃腸炎は年間を通して起こっています。成人では 何回も感染発症する感受性群と全く感染を受けない非感受性群に分かれるようですが、不明な点が多く、詳しいデーターは余りありません。サッポロウイルスによる胃腸炎 正 20面体の構造で直径が27〜35ナノメートルと小型で、一本鎖RNAを遺伝子とするウイルスです。主に乳幼児から6才位の年齢層に急性胃腸炎を起こす原因ウイルスですが、いまもって培養が出来ないウイルスでもあります。ウイルスの大きさ、遺伝子や培養できないことは、ノーウォークウイルスと似ています。食中毒の原因ウイルスであるのかはいまのところ不明ですが、急性胃腸炎の頻度は、 A群ロタウイルス、ノーウォークウイルスに次いで3番目に多いと考えられています。詳しいことは不明です。発熱と嘔吐に続いて下痢が数日間ともなうが発熱の頻度は低く、一般に軽症な例が多いようです。季節性はなく一年を通して感染例があるようです。アデノウイルスによる胃腸炎 正 20面体の構造で直径が80ナノメートルで、二本鎖DNAを遺伝子とするウイルスです。ヒトのアデノウイルスは、ヒトから分離されたウイルスとして最初に動物に注射すると悪性のガンを作ることが証明されました(12と18番)。多くの種類が知られていますが、そのなかで40と41番が急性胃腸炎の原因ウイルスで腸管アデノウイルスと呼ばれます。主に乳幼児に散発性の急性一葉園を起こすが、施設において集団発生の報告もあります。ウイルスは培養して殖やすことができます。発熱の頻度は低く、下痢と嘔吐のみだけ、または下痢だけの症例が多いようです。アストロウイルスによる胃腸炎 このウイルスは、電子顕微鏡で観察すると粒子の直径が約 28ナノメートルで星型に見えることからアストロウイルスと呼ばれます。遺伝子としては、一本鎖RNAをもっています。主に乳幼児に急性胃腸炎を起こすが、成人の流行例もあります。急性胃腸炎のなかでは、3番目または4番目に多いウイルスであるとの報告もあります。1才未満の乳児などの幼若なものほど感染しやすく、発症率も高いといわれています。主に冬に流行するが、一般に軽症で発熱や嘔吐も少ない。原因不明な集団発生の場合は、その1割近くがアストロウイルスによるとされています。ウイルスによる病気の最初に現れてくる症状は、原因ウイルスに特徴があまりみられません。お腹をこわしても、発熱と吐き気で始まり、次いで下痢が見られます。その胃腸炎がどのウイルスによるのか決めるには、ウイルスの試験をする必要があります。培養しても殖えないウイルスも多々有りますが、それらのウイルスの試験は電子顕微鏡で粒子の検出と形態の観察および遺伝子を調べることになります。 ウイルスの病気で麻疹の症状だけは例外的に特徴があります。賢いお母さんはかけだしの小児科のお医者さんより、麻疹を診断する能力があると俗に言われています。しかし、「麻疹だ、ウイルスの病気だからお医者さんに連れて行っても治らない」と決め付けないで下さい。麻疹になった子供のうち数十万人に1人の割合で、麻疹のウイルスが脳に潜んで、6年間ほど経過すると脳が犯される病気(亜急性硬化性全脳炎、SSPE)になり一命を落とすことも有ります。今年は麻疹が流行しているようです、SSPEを予防する目的でワクチンが強制的に接種されます。子供の健康を守るためには、母親がます賢くあるべきです。世の中のお母さん達、賢くなってください。 |