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421. インフルエンザの治療薬. 1-15-2006.
 
トリ型インフルエンザは流行しますか
トリ型インフルエンザが大流行するのでしょうかとの質問を受けます。質問を寄せた人の知りたい目的に対して的確な回答を書くのは大変に難しい問題です。トリに感染するトリのインフルエンザウイルスが変異をして、トリからヒトに感染し、そのヒトから周囲のヒトにまた感染して、人集団での感染の拡大が起こる。新しいウイルスの場合には、生体は免疫学的には対応が難しくなりますから、新型のインフルエンザの流行を考えると怖い話になります。
インフルエンザワクチンの製造に携わっている人達は、通常は強い免疫が作られていますので、インフルエンザウイルスの感染を通常の人達よりは罹りにくいのが現状です。ところがウイルスが新しくなると、例えば、新トリ型インフルエンザウイルスになると、ワクチン製造要員が最初に罹ります。彼らが罹るウイルスは、怖いのです。普通のウイルスに対する免疫で防御できないことは、これまでに流布されているウイルスとは免疫学的に違うことを示すからです。
その流行がいつ起こるのですか、と聞かれるとまた答えにきゅうします。数年間のスパン(時間)で考えれば、新型のインフルエンザウイルスが誕生して人集団で流行することは少しも不思議な話ではなく、当たり前かも知れません。大流行がおこることも想定されます。しかし、トリ型インフルエンザウイルスによる大流行がこの冬に起こるかといわれると、その可能性はそれほど高くないと思いますと応えています。
 
インフルエンザの治療薬
国ではタミフルを備蓄して、トリ型インフルエンザの大流行に備える構えを示しています。タミフル以外にインフルエンザの治療薬にはどのようなものがあるのでしょうか、またタミフルを服用するとインフルエンザは治るのでしょうかという類の質問がふえてきました。インフルエンザの治療薬について、概略を説明します。
 
インフルエンザウイルスに有効な薬は、三種類あります。世の中に出た古い順番に上げると、シンメトリル(アマンタジン、日本ロッシュ社)、リレンザ(ザナミビル、グラクソ・スミスクライン社)とタミフル(オセルタミビル、日本ロッシュ社)です。
 
アマンタジンは、特徴的なカゴ形構造の薬品で、精神科でも使われています。インフルエンザウイルスの細胞への侵入を抑制して、ウイルスの増殖を阻害する、抗インフルエンザ薬です。しかし、インフルエンザのA型にしか有効性が証明されていないこと、ウイルスが容易に耐性になることなどの欠点があります。
リレンザとタミフルは、細胞内で増殖したウイルスが細胞から離れるところを阻害します。インフルエンザウイルスは、細胞の膜の直下で成熟して、細胞の膜をかぶって細胞外にでます。レセプターから離れて細胞外に放出されるのですが、そのときシアル酸を分解するノイラミニダーゼと呼ばれる酵素の働きが必要となります。リレンザとタミフルは、細胞内でのウイルスの増殖は阻害しませんが、周囲の細胞に新たに感染する段階を邪魔してウイルスが増えることを抑制します。ノイラミニダーゼ阻害剤であるリレンザとタミフルは、インフルエンザのA型とB型のウイルスに有効ですが、C型ウイルスには無効のようです。ウイルスの増殖を阻害するのではなくウイルスの感染拡大を抑制する薬剤ですから、感染後の早期に使用することが肝心と言われています。
 
抗ウイルス剤の使い分け
インフルエンザウイルスの感染を受けた場合、どの薬剤を使うとより効果的なのでしょうか。三種類とも同じ程度の治療効果が期待できるのでしょうか。
A型のインフルエンザウイルスによる感染と早期に診断がつけられた場合は、アマンタジンの使用が良いかもしれません。ウイルスの型がA型かB型かが判らない場合で、感染して2日以内であればノイラミニダーゼ阻害剤の使用がアマンタジンの使用より効果的と思われます。リレンザとタミフルでは、粉末を吸引するのとカプセルを飲むのとの違いがあります。いずれの場合も、C型インフルエンザウイルスやその他のウイルスや細菌による感染には、どの薬剤も効果は期待できません。
 
 
アマンタジンは、私がまだ若かった頃に国外で発見された抗ウイルス剤です。有機化学の研究室で合成した化学物質について、日本脳炎ウイルスやインフルエンザウイルスに対する増殖抑制作用や殺ウイルス作用を調べる手伝いをしていた時期が私にもありました。その頃に報告されたのがこのアマンタジンでした。インフルエンザウイルスのA型にしかアマンタジンは効かないからダメだね、我々はA型にもB型にも効果のある薬物を見つけ出すのだと張り切っていた頃を思い出します。

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