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422. 米国人は本当にいい加減? 2-20-2006.
 
どうして月まで人を送れたのか
米国産牛肉の検査などから「米国人はいい加減だ」との風評が立っています。そこで「こんないい加減な人達が、どうして月まで人を送れたのであろうか」という疑問がわいてきました。そこで「どうして米国人は月まで人を送れたのか」について考えてみました。幸い、かつて読んだ数理統計の本に、この謎を考える上での鍵があることを思い出しましたので、それを元に考えを述べさせていただきます。
 
この本は、P.G.ホーエル著「入門数理統計学」浅井晃、村上正康共訳、培風館、1978年1月20日初版発行です。原著は「P.G.Hoel: Introduction to Mathematical Statistics, 4th edition(John Wily & Sons Inc.,1971)」です。原著の初版は1947年の出版でして、戦後間もない頃のものです。多くの数理統計の書物同様、不良率や品質管理図の記載もありますが、初版の年代を考えに入れなければこの意味は理解できないと思います。私自身、読んだときは特に意識してはおりませんでした。初版の年代から考えて、戦争における兵器の製造で、既に、これらの概念を取り入れ合理的に行ったのではないかと推察されます。日本では、全てが手作りであったため、同型機の部品が、ねじ穴の位置の違いから取り付けられず、紐で縛っていたとの話もあるのに対して、撃墜した米国の爆撃機の部品が、戦闘機にぴったり取り付けられたとの話を聞きます。更に、この入門数理統計の問題の中に、明らかに、戦争に数理統計を利用したと思われるものがあります。幾つかありますが、代表的なもの一つの全文を掲載いたします。
 
爆撃で命中する確率
第6章 相関と回帰に関する確率分布
2節 2変数の正規分布の問題
問28.ある爆撃機が、中心を原点とした1辺200フィートの正方形の標的に対してy軸の正の方向に飛行しながら急降下爆撃を行うものとする。爆撃を繰り返し行ったとしたときのx軸、y軸に対する誤差X、Yは平均が0の正規分布に従うと仮定する。
(a) もし、X、Yが独立で、σX=σY=300フィートであるとすれば、1回の爆撃で標的に命中する確率はいくらか。
(b) (a)と同じ条件の下で、10回爆撃するとき少なくとも1回命中する確率はいくらか。
(c) (a)と同じ条件で、少なくとも1回命中する確率を0.8よりも大きくするには何回爆撃しなければならないか。
(d) XとYとの間にρ=1/2の相関関係があるとすれば、(a)を解くのが難しくなるのはなぜか。
 
ここから、「戦術に数理統計を用いている」ということが読み取れると思います。一方で、日本では、猛訓練により命中率を上げることにやっきでした。命中率が高いに越したことはありませんが、このような方法ではベテランを養成するのに時間がかかります。従いまして、単位時間当たりに養成されるベテランの数よりも、戦死者の数が上回ればじり貧になります。日本には数理統計的な考えを戦術に取り入れてなかったものと思われます。
また、人に対する処遇にも差がありました。米国では、ある程度前線で戦うと後方に回したり、撃墜数がある程度多くなると、後方で指導教官なっていたようです。一方で、日本では、死ぬまで前線で戦っていました。ベテランを養成するのには時間がかかりますので、本来、日本の方がベテランパイロットの保護に力を入れるべきでしょう。
 
戦争は、良くも悪くも、国家の威信をかけた巨大プロジェクトです。そのことを頭に入れた上で比較することには意味があると思います。戦時における日米の比較から、米国は非常時には、科学的に合理的な方法を取れるものと思います。つまり、全てが全ていい加減な人達だけではなく、科学的・合理的なことのできる優秀な人達がリーダー格の中にいて、非常時にはそれらの人達が指揮を取れるだけの体制があるものと推察されます。
 
アポロ計画
アポロ計画は国家の威信をかけた巨大プロジェクトでしたので、これら優秀な人達が指揮を取り、科学的な考察によって合理的なロードマップを策定し、それに沿って一歩一歩実現していき、月へ人を送ることに成功したのではないでしょうか。
ここで、幾つかの例を見て、その上で更に考えてみることにします。ごく身近になったインターネットは、米国防総省が、核攻撃に対しても機能し続ける分散型通信ネットワークとして研究していたものが原型です。これは1960年代終盤から研究が開始されたARPnetです。民間に開放されて、色々な所で研究が進み、やがてインターネットとして世界各地に広まりました。また、カーナビでお馴染みのGPS(全地球測位システム)も、70年代に米国防総省で研究が始まりました。元々はミサイルのピンポイント攻撃用のシステムでしたが、やはり、民間に開放されています。当初、SA(精度劣化)を入れての開放でしたが、2000年にSAが解除されています。目的や動機は何であれ、軍事利用に研究/開発されたものを民間に開放するというのは、おおらかというか、懐の深さを感じさせるものがあります。
 
しかし、軍事利用だけがちゃんとしているという訳ではありません。米国の食事が世界一であることを実証しようとして調査した結果、逆に、最低であることが解ると米国成人病研究所を立ち上げ多大の成果を上げています。また、米厚生省では、早くからコンピューター化が進んでいましたが、後に、過去のデータが読めなくなるという事態が発生すると、メディア研究所を立ち上げています。研究成果も色々ありますが、実は、デジタルデータは不滅ではないということが明らかにされています。通常、デジタルデータは不滅であり、永遠に劣化しない、劣化するのはメディアの方だけであると教わりますが、実は、論理的にはデジタルデータは不滅であるとしても、そのデータを読み出す装置や方式が無くなってしまうということが起こります。読み出せないデジタルデータは全く役に立ちません。寿命が尽きたことになります。先の米厚生省のデータも、再生装置が無くなり読み出せなくなったのが原因です。
 
お昼に何を食べますか
このように見ていきますと、悪い面もいろいろありますが、全世界の日常生活に貢献しているところもあります。少し統計的に物事を考えてみた方がよいかも知れません。以下の思考実験をしてみましょう。日本人が昼食時に何を食べているのかを調べることを考えます。無作為にカレー屋を選び、昼食時に食べているものを調べれば、「ほとんどの日本人は昼食時にカレーを食べている」との結論が出てくるでしょう。また、鍋焼きうどんの評判を調べるために、真夏の炎天下の道路(複数箇所)で、通行人に対して、「鍋焼きうどんが食べたいか」と聞けば、ほとんどの人は「食べたくない」と答えるものと思います。そこで、「通行人何万人に対して調査をした結果、ほとんどの人は鍋焼きうどんを好まないという結果が出ました」と結論付けることも可能です。
結論だけ見せれば、それなりに「そうか」とも思えますが、かなりいい加減な笑い話であることが解るでしょう。つまり、統計情報は採り方によって結論がどうとでもなるため、全般に渡って精査しないと信用できるものかどうか解らないということです。ここで示した例は、きちんと条件を明示してあるため、いい加減なことが見て取れますが、あまり笑って済ませられる問題でもありません。例えば、度々マスコミで取り上げられる話題として、不祥事を起こした医者にだけ焦点を当てて、さも医者が悪の権化であるかの様な話もあります。これらも、カレーや鍋焼きうどんと同じようにいい加減な統計的判断をしています。やり方は、目立ったポイントデータだけを取り上げてそれが全体であるかのごとくに見せかけることです。実際に、医者にも色々な人達がおり、いい人も悪い人もいます。身の回りの人達を見れば、いい加減な人達ばかりでなく、色々な人達がいるのがお解りになると思います。
 
米国についても同様ではないでしょうか。いい加減な人達から、まともな人達まで色々いるが、いい加減な人達があまりにも目立ちすぎ、結果として、いい加減な国に見えてしまうのではないでしょうか。統計的に見れば、色々な人達がいるという幅があるのに、ポイントデータだけで全体を判断していることになります。実際、牧場によっては、日本人の口に合うように努力をしているところもあるようですし、また、日本向け輸出のため、自費で全頭検査をしようと申請したが(日本向けの方が利幅が大きいため自費で検査しても利益が上がる)、米農務省に却下されたという牧場もあります。いい加減な人達から米農務省への圧力(癒着?)の方が問題ではないでしょうか。
 
いいの悪いのといくら騒いでみたところで、結局はまた同じ事を繰り返し泥沼にはまっていくだけだと思います。こうして、問題を発生させている間にも、他の国は動いていますので、市場が全て獲られるという可能性は大です。日本としては、それでもかまわないでしょうが、米国としては国益に反することになるでしょう。悪貨が良貨を駆逐するような対策ではなく、良貨が悪化を駆逐するような対策が必要になってきているのではないでしょうか。しかし、それは非常に難しい問題でしょう。現状のように、政治的圧力に頼っている状態では解決策の見通しはないものと思われます。
終わり
ペンネーム「秋春」
 
アメリカの宇宙船が月に到着し、宇宙飛行士が月面を飛び上がって跳ねていたテレビに映し出された光景を固唾を呑んで見守っていた記憶があります。人類最初の宇宙飛行士と米国々旗が月面に立っている写真の35ミリのスライドをスミソニアン博物館で買いました。いまも記念に持っています。月にまで人を送り込める技術を持っているアメリカ人が、米国産牛肉の日本への輸出再開でみせた御粗末さをしでかしたアメリカ人とが同じアメリカ人とは思えないような不思議な気がしていました。そのような私の自然な疑問に答えてくるような原稿をペンネーム「秋春」様から頂きました。見出しをつけた以外は、原文のままで掲載させてもらいました。

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