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460. ネズミチフス菌でスズメが大量死. 3-23-2007.
キーワード:ネズミチフス菌・スズメ・北海道・鳥インフルエンザ
 
北海道でスズメが大量死
2005年12月頃より北海道でスズメの死体が頻繁に観察されるようになり、2006年7月には北海道全域でその死体数は1,517羽になったようです。特に4月になり雪どけがすすむにつれて、とけた雪のしたからスズメの死体が発見される事例がおおくなってきました。ほとんどの死体は腐敗しているか乾燥していることから、極寒気以前に死亡したものと推測されています。
鳥インフルエンザとの関係から、スズメという野鳥の大量死に興味をもったひとたちも大勢いたようです。腐敗していた死体からは、あまり有効な情報は得られにくいのですが、それでも鳥インフルエンザウイルスでなくネズミチフス菌による感染症が浮き彫りにされてきました。
 
ネズミチフス菌Salmonella Typhimurium
スズメを殺したネズミチフス菌について簡単な説明を加えます。
サルモネラ菌は、細菌感染症の重要な病原菌の一つで、多くの種類が判っています。全身感染症として恐れられる腸チフスtyhoid feverは、チフス菌(サルモネラ・チフィ Salmonella Typhi)によります。チフス菌は、ヒトのみに感染し、マウスなどの実験動物には感染しません。チフス菌以外のサルモネラは、サルモネラ腸炎(おう吐、下痢や腹痛などの食中毒)の原因となります。
Choleraesuis(ブタコレラ)菌はヒトまたはブタ、Dublin菌はウシなどの家畜、Enteritidis(エンテリティデス)菌はニワトリなどの家禽(かきん)、Typhimurium(ネズミチフス)菌はネズミなどのげっ歯類の感染源になります。これらの菌は、患者または患獣の糞便や尿、またはそれにより汚染された食品や水、手指などが感染源(経口感染)となります。50%が感染する菌量は約10万個と言われています。
日本におけるサルモネラ胃腸炎は、ネズミチフス菌によるものが多かったのですが、1990年頃からはエンテリティデス菌によるようになりました。これはエンテリティデス菌に感染しているニワトリからのタマゴを食することによります。
 
北海道のスズメからネズミチフス菌
2006年の雪がとけた4月に北海道の登別市と旭川市で収集された、スズメの死体を用いて原因を調査したその結果が報告されています(病原微生物検出情報 28巻2号49頁、2007年)。その成績によると、登別市内で2羽と旭川市内で6羽の計8羽が回収され、それらについて医学的な検査が行なわれました。死体は腐敗がすすんでいて内蔵などの観察は難しかったようです。組織に観察される菌体は、サルモネラ菌の免疫抗体と反応することが確認されました。それらの組織からサルモネラ菌を増菌させる培養を経て、8羽中3羽の臓器からネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)が計5株が分離されました。これらの全ての分離株は、ファージ型別(特殊な分別法)でDT40と同定され、同一の薬剤感受性(抗生物質の有効性)を示し、そのDNAの電気泳動パターンは同一でありました。
これまでに日本国内ではスズメの大量死事件は報告されてなく、健康なスズメからネズミチフス菌が検出されたとの報告もないようです。またヒト、家畜や野鳥から頻度は低いがネズミチフス菌が検出されてはいます。しかし、その分離菌株のファージ型別で、DT40が過去に検出されたことはなかつたようです。
野生のスズメ目の鳥のネズミチフス菌感染による大量死は、スイス、イギリス、ドイツ、デンマーク、スエーデン、ニュージランドなど、多くの国で報告されています。北海道で今回検出されたネズミチフス菌DT40は、イギリスやノルウェーにおいてスズメの大量死にかかわる重要な型とされているようです。これまで国内ではヒトからも動物からも検出されたことのないネズミチフス菌DT40が、どのようなルートで北海道のスズメから検出されるようになったのかは全く不明のようです。
 
 
この報告が国内で最初のスズメのネズミチフス菌による感染例となるようです。スズメの生態については調べてないので私にはよく判りませんが、渡り鳥ではないと思います。ある程度の縄張りは持っているようですが、そのような野生のスズメが国外のスズメと交わる可能性はほとんどないのではと思われます。とするとスズメ以外の野鳥が国外から持ち込んできた可能性が考えられます。宮崎県などでの鳥インフルエンザウイルスによるニワトリの集団感染などと北海道のスズメの感染死を重ね合わせて動物の感染にも配慮を払う必要がありそうに感じました。

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