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459. EBウイルスの抗体が高い若者と多発性硬化症. 10-6-2006.
キーワード:ヘルペスウイルス EBウイルス 多発性硬化症 MS
 
ヘルペスウイルスの一種類であるEBウイルスは、アフリカではバーキットリンパ腫、中国では上咽頭ガン、日本などでは伝染性単核球症(俗名キッス病)などを引き起こすウイルスです。ところがEBウイルスに対する免疫抗体価が上昇している若者は、15年〜20年後に多発性硬化症(MS)を発症するリスクが高いとの報告を見つけました(Archives of Neurology,2006、電子版)。
 
EBウイルスとは
ヘルペスウイルスに属するウイルスで、伝染性単核症、バーキットリンパ腫や上咽頭癌の原因ウイルスです。ウイルスの伝播は接触による感染で、米国ではキッス病とも呼ばれます。EB(エプシュタイン・バー)ウイルスは、思春期以降に初めて感染した場合、伝染性単核症を発症します。悪性疾患としては、バーキットリンパ腫や上咽頭癌を引き起こします。EBウイルスは、リンパ球(細胞)で増殖するウイルスとしてはすこし変ったウイルスです。このウイルスの感染を診断するための検査法は、既に確率されています。ワクチンなどの予防法は確立されていません。
 
多発性硬化症(MS)とは
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は、神経線維が壊れて多くの瘢痕(はんこん、硬化)が脳、脊髄や視神経などに生じ、多彩な神経症状が表れます。難病に指定されています。20才〜40才(ピークは30才頃)のあいだに発症することが多く、女性に多い病気です。感覚の異常(感覚症状)、動作の問題(運動症状)などが表れたり、消えたりします。原因は、不明ですが、ウイルス、抗原、遺伝や環境などが引き金になって、自分の組織を攻撃する自己免疫反応が起こるのではないかと考えられています。筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリッグ病)、エイズ、ライム病などとの区別が必要です。MSに有効な治療法はありませんが、インターフェロンやステロイドが用いられます。
 
EBウイルス抗体価が高い若年成人とMS
米国のカイザー研究所のGerald N. DeLorenze博士らは、伝染性単核球症の原因となるEBウイルスの免疫抗体の高い若者は15年〜20年後に多発性硬化症を発症するリスクが高いことが判明したと発表しました。慢性の自己免疫疾患であるMSには、以前から35〜40才になるまでに米国人の最大で96%が感染するEBウイルスが多発性硬化症の発症に関係している可能性が示唆されています。
DeLorenze博士らは、1965年〜1974年に健康保険に加入した患者(平均年齢32.4才)の医療記録を調査しました。保健に加入時の患者は複数の検査を受け、健康状態と行動についての質問に回答し、血液サンプルを採取され保存されていました。
DeLorenze博士らの調査結果は、1995年〜1999年に受けた医療の記録を検索し、血液サンプルから多発性硬化症に罹っている42例を研究チームは選び出しました。多発性硬化症に罹っていた女性36例と男性6例は、平均45才のときに最初の症状が発現し、血液採取から平均15年が経過していました。EBウイルスに対する免疫抗体の平均値は、非多発性硬化症患者よりも多発性硬化症患者のほうが有意に高くなっていました。抗体価が4倍の患者は、多発性硬化症を発症する確率が約2倍になっていました。EBウイルスに対する免疫抗体価の上昇は、多発性硬化症の最初の神経症状が発現する15〜20年前に顕著となり、その後も上昇し続けていることが判明しました。
EBウイルスがどのような経過を経て自己の神経系を攻撃させているのかは不明です。EBウイルスが自己免疫疾患、特に全身性エリテマトーデスとの関連を示す多数の報告から、この調査研究の成果は、EBウイルスが自己免疫疾患に幅広く影響を与えている可能性が示唆されたと述べています。
 
EBウイルスは、人集団に広く蔓延しているヘルペスウイルスの一種で、米国ではキッス病と呼ばれることもあります。キッス病に罹る年齢層がEBウイルスに感染すると、それより15年〜20年後に多発性硬化症(MS)を発症するリスクが高いという内容の報告です。別な表現では、EBウイルスに感染する年齢により多発性硬化症を発症する確率が高くなることがあるというものです。EBウイルスは、人集団に広く蔓延しているウイルスですから、免疫抗体を持っていても、それだけでは何の意味もないと思われます。そのため、多発性硬化症との関連づけは慎重であるべきと思います。今回の調査結果を難病である多発性硬化症の治療法と予防法につなげる努力が必要と思われます。ルー・ゲーリッグ病については「450. 病名に名を残した野球選手ルー・ゲーリッグ」を開いて見てください。

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