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517. ツベルクリンより高精度の結核の検査. 2-12-2008.
キーワード:活動性結核、高感度新診断法、ELISpot、INF-γ、ツベルクリン
 
英国インペリアルカレッジ呼吸器感染センターのAjit Lalvani教授は、比較的最近に導入されたELISpot(エリスポット)法は、活動性結核のリスクが高い患者を同定する精度がツベルクリン反応より高いことが判ったと報告しています。
 
WHOの推測によると、世界人口のおよそ3人に1人は結核に感染しており、主に発展途上国の住民が世界中で毎年900万人ほどが活動性結核を新規に発症していると言われています。
 
Prognostic value of a T-cell-based, Interferon-γ biomarker in children with tuberculosis contact(Ann. Inter. Med. 149: 777-786, 2008)の論文でAjit Lalvani教授は、家庭で結核に暴露したトルコ・イスタンブールの小児や思春期若者908人が参加した試験を実施した。その結果、908例のうち594例は、エリスポットまたはツベルクリンのいずれか1方、または両方の検査から潜伏結果の陽性反応を示した。
 
ツベルクリン反応で結核の陽性反応を示した小児550例のうち、12例が活動性結核に進行した。一方、エリスポット試験で陽性反応を示した小児381例とツベルクリン反応ゆりは少数だが、活動性結核に移行した小児12例中11例が陽性であった。エリスポット試験で陽性の小児では、陰性の小児と比べて結核の発病リスクが約4倍も高かった。
 
この調査研究の結果、インターフェロン-γを分泌するT細胞の数を測定するエリスポット試験の方が、従来のツベルクリン反応に比べて活動性結核発現患者の予測精度が高いとの結論にいたった。
 
Lalvani教授は、英国など先進国の国民の大半は、結核はすでに過去の病気で、もはや感染を心配する必要はないだろうと考えているが、英国でも結核患者数は過去20年間ちかく上昇し続けている。発展途上国では、結核の発生が世界的流行の域に達しており、非常に多くの人々に苦痛と死をもたらしている、エリスポットのような新しい検査法は世界的な結核の予防対策に有用であることが示されたと述べている。
 
「用語の解説」
ツベルクリン
結核の診断に用いられる検査用抗原です。結核菌に感染した場合、この抗原に対して陽性反応が起きることが多い。1890年にドイツ人医師ローベルト・コッホによって創製されたものです。当時のツベルクリンは、結核菌からグリセリン抽出したもので、結核治療用に開発されたが効果はなかった。
インターフェロン:
動動物体内で病原体(特にウイルス)や腫瘍細胞などの異物の侵入に反応して細胞が分泌するタンパク質です。このタンパク質はウイルス増殖の阻止や細胞増殖の抑制、免疫系および炎症の調節などの働きをする。ヒトでは大きく分けて3つのタイプ、インターフェロンα(INF-α)、インターフェロンβ((INF-β)とインターフェロンγ(INF-γ)がある。結核感染者のリンパ球に結核菌特異抗原を暴露すると、リンパ球からINF-γが分泌される。
BCG:
フランス語でカルメット・ゲラン桿菌の略。ウシ型結核菌を実験室で長期間培養を繰り返すうちに、ヒトに対する毒性が失われて抗原性だけが残った細菌で、その生きた菌をヒトに接種して感染させることで結核菌に対する免疫を誘導することが可能である。BCGワクチンは、現在実用化されている唯一の結核ワクチンである。しかし、成人結核に対する効果は調査地域などによるばらつきが大きいため、BCGワクチンを接種するかどうかは、国ごとに判断が分かれている。
 
 
いま現在世界的に流行している薬剤耐性結核菌による感染は、2年近くにもおよぶ長期間の集中治療とやや毒性の強い薬剤による治療からなるため、薬剤感受性結核に比べ100倍以上の費用がかかると云われています。発展途上国の多くの国民は、その費用の負担が大問題なのです。そこでできるだけの予防と早期診断法の確立が要望されるゆえんです。その確定診断の対策に有用な試験「エリスポット法」の有用性が高くなりつつあります。欧米諸国では、この検査法は広く実用化されていますが、我が国では健康保険で認定されていないため使用できないのです。早い時期に認可になることを期待したいものです。

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