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541. Hib (b型インフルエンザ菌)による感染症.5-2-10.
キーワード:インフルエンザ菌、乳幼児の侵襲性感染症、ワクチン
 
はじめに
 インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)は、グラム陰性球桿菌または桿菌で、菌体を被う莢膜多糖体の糖鎖構造の違いにより、a〜fの6つの血清型と無莢膜株型に分けられる。このうち侵襲性の高いインフルエンザ菌はb型の莢膜をもつ株で、Hibと呼ばれている。無莢膜株型インフルエンザ菌はヒトの鼻咽腔に常在菌としてみられるが、Hibは乳児や小児の敗血症や髄膜炎、急性喉頭蓋炎などの侵襲性感染症の起因菌となることが多い。
 
インフルエンザ菌の起源
 1891年の冬にヨーロッパでインフルエンザが大流行した際、ドイツのコッホ研究所のR. Pfeifer(パイフェル)と北里柴三郎が、インフルエンザ患者の鼻咽頭から小型の桿菌を発見・分離し、1892年1月のドイツ医事週報に2人が同時に独立に発表したことが、本菌(当初はPfeifer’s bacilliと呼ばれた)の名称の起源となった。
 1933年にイギリスの研究者がインフルエンザウイルスを発見したが、その後も本菌の学名として「Haemophilus influenzae」が使用されてきた。国内で「インフルエンザ桿菌」と表記されることもあるが、「インフルエンザ菌」が細菌学的な正式の和名である。
 尚、インフルエンザ菌発見の経緯については、北里柴三郎博士の秘話に掲載されている「インフルエンザ菌 誰が最初の発見者か?」を参照してください。
 
細菌学的な特徴
 インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)は、グラム陰性の小型の球桿菌または桿菌で、「hemophilus」という名前が示すとおり、血液成分であるX因子(X factor: hemin)やV因子( V factoe: NADおよび NADP)などを生育に必要とする。菌体を被う莢膜多糖体の糖鎖構造の違いにより、a〜fの6つの血清型と無莢膜株型に分けられる。インフルエンザ菌b型莢膜株は、Hibと呼ばれ、乳幼児に髄膜炎をおこすことで知られている。
 病原因子としては、b型莢膜多糖の産生、定着因子としての線毛、IgAIプロテアーゼ、28kDa膜タンパクなどが指摘されているが、Hibが侵襲性を示す機構については不明な点が多い。
 
疫学
 ヒトの鼻咽腔に常在し、その多くは無莢膜株であるが、小児の髄膜炎や敗血症例から分離される株は、95%以上がHibであ。
 5歳以下のHib髄膜炎の罹患率は、Hibワクチン導入以前の欧米、北アメリカ、アラスカ地域では、10万人対40〜300であった。しかし、Hibワクチンが導入されていないわが国でのこれまでの調査では、10以下と推測されている。Hibワクチンを定期接種として導入した米国などでは、罹患率は着実に低下し、現在は「ほぼ0」に減少した。
 
インフルエンザ菌感染症
 一般的にはウイルスなどによる風邪の回復期にしつこい痰が続く場合などに、喀痰よりインフルエンザ菌が分離されることが多い。無莢膜株は、中耳炎、副鼻腔炎、慢性気管支炎や結膜炎からしばしば分離される。莢膜株でb型は、主に生後4ヶ月以降の乳幼児の敗血症や髄膜炎の起因菌となることが多く、急性喉頭蓋炎の原因ともなる。成人の肺炎は、有莢膜株による場合が多い。
 
治療法
 Hib髄膜炎などの重症感染症の治療には、第一選択薬として、髄液に移行しやすいcofotaxime、血中の半減期が長いcefriaxone、またはcefuroximeなどが用いられることが多い。上気道感染症の時には、amoxicillin/clavulanateや cefiximeなどがもちいられる場合が多い。
 
 
b型莢膜株Hibは、主に生後4ヶ月以降の乳幼児の敗血症や髄膜炎の起因菌となり、急性喉頭蓋炎の原因ともなり、髄膜炎の場合、重度の後遺症や死亡もみられることから怖い菌である。患者の致死率は1.5%程度とそれほど高くないが、乳幼児の場合は厄介な感染症となる。早期のワクチン導入が望まれる。
 

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