◆微生物 [Microbes]
小さな生物を微生物と呼ぶ。細胞に核の有無と染色体の数その他より、真核生物と原核生物に分類される。核の存在する真核生物は、細胞壁のない原虫(アメーバー等)と細胞壁のある真菌(普通カビと呼ばれる)に分けられる。一方、核の存在しない原核生物は、真菌と同じく細胞壁があり、細菌、クラミジアやリケッチアなどがこれに属する。このほかに、生物共通の細胞という共通の構造を持たない、ウイルスやプリオンなどが存在する。一般に人を含む動物の細胞には細胞壁はなく、植物の細胞には細胞壁がある。原則として、ペニシリンなどの抗生物質がヒト、ウイルスやプリオンに無効で細菌に有効なのは、細菌は植物で細胞壁を有するからです。
微生物という用語は分類上の名称ではなく、一般的には直接肉眼ではみることができず、顕微鏡によって初めて識別できる微小な生物群をいう。しかし、生活環の中で肉眼でも容易に判る大きさの形態を示すきのこやある種の粘菌の変形体ような場合もある。また、特定の微生物細胞の群体や集落(寒天培地上などで一つの細胞が増殖してできる同一細胞の集団塊)は大きく容易にみることができる。
一般にウイルス以外の細胞性の微生物では、単細胞性がほとんどであるが、ときには一細胞内に二つ以上の核がある多核細胞性や、生活環の中で多細胞的な時期をもつ微生物もある。また、原虫(原生動物)、真菌、単細胞藻類、粘菌のように、その細胞の構造が基本的には高等な動植物の細胞と同じ真核生物である原生生物界に属する微生物や、細菌と藍藻(藍菌)のように原始的な細胞構造をもつ原核生物界に属する微生物もあり、さらにウイルスあるいはウイロイドのように、電子顕微鏡で初めて確認できる細胞性ではない極小の微生物(感染粒子)まで含まれているので、微生物の範囲はきわめて広い。
一方、微生物が生育するための栄養面からみても、多くの微生物は炭素源として有機物を利用する従属栄養性であるが、無機物を利用する独立栄養性のもの、独立栄養性でも植物のように光合成を行う微生物、その両方の仕組みをもつ微生物などがある。また、多くの微生物は酸素を利用する好気性微生物(好気性菌を含む)であるが、中には酸素がない環境にのみ生育する嫌気性微生物もある。さらに、微生物には人工的な培地で培養できるものも多いが、いまだ培養できないものもある。リケッチアやクラミジアのような最小の細菌やウイルスのように他の細胞に寄生しないと増殖できない微生物は人工培地では培養することができない。
微生物は地球上のほとんどあらゆる環境に生息して、その中で物質循環、食物連鎖、環境浄化などに役立っている場合が多いが、ある種の原虫、藻類、真菌、細菌およびウイルスのように動植物の病原体になっている微生物もかなり多い。このように一概に微生物といっても、その生息環境、細胞や粒子の大きさ、形、構造あるいは働きなどがきわめて多様な生物群である。また、細胞性の全ての微生物は遺伝子として他の高等な生物と基本的には同じ核酸のDNAをもっているが、ウイルスの遺伝子はDNAかRNAのいずれかである。ウイロイドは現在、植物の病原体として知られており、核酸RNAのみの微小な粒子である。
このように遺伝子核酸をもって増殖することができるものが生物であるといえるが、最近、ヒツジのスクレイピーやウシの狂牛病、ヒトのクロイッツフェルト・ヤコブ病とよばれる強い脳神経障害をおこす病気の病原体として、新しくプリオンとよばれるようになった感染性のタンパク質が報告された。プリオンには遺伝子としての核酸をもっていないと考えられているので、これが果して生物であるかどうかは議論が分かれるところで、まだ全面的には認められていない。
粘菌
ウイルス
原虫(原生動物)
真菌
単細胞藻類
粘菌
真核生物
原生生物
細菌
藍藻
藍菌
原核生物
ウイロイド
好気性菌
リケッチア
クラミジア
核酸
きのこ
従属栄養性
プリオン